引かれ者の小唄

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145 松尾芭蕉と夢紀行 -その2

****2)その2 奥の細道の芭蕉自筆本は、かねてからその存在が伝えられていた。野坡(やば)本と言われていたものである。その野坡本がひょっこり出てきた。 長い間、杳(よう)として行方の知れなかったものが出現したのである。しかも時を移さず、解説付きで影印本が刊行され、誰でも容易に手にすることができるようになった。書写には格好のものだ。 思い立ったが吉日とばかりに、拘置所で使っていたコクヨのCampu […]

144 松尾芭蕉と夢紀行 -その1

***8.松尾芭蕉と夢紀行 ****1)その1 勾留中、房内で古典の書写に没頭したことは既に述べた(“書写と古代幻視”)。 書写という単調な作業は、実際にやってみると意外に面白く、しかも単に目で追って読むのに較べて、はるかに作品の理解が進むことを実感した。ゆっくり書き写していると、いわば作者の息吹きとでもいったものが、行間から伝わってくるのである。 古来、印刷技術が発明されるまでは、全て書写という […]

143 房内放送 -その4

****4)その4 房内放送にはNHKだけでなく、民放ラジオも組み込まれていたので、番組の途中でコマーシャルが入る。普段であれば全く気にならないようなことが、独房という特殊な閉鎖空間にとじ込められていると、気になってしかたのないことがある。房内放送のコマーシャルの中にも神経にさわるものがいくつかあった。 「皆生(かいけ)温泉、サニー・テニス横、ホテル○○、お二人の、めくるめく愛のひとときをおすごし […]

142 房内放送 -その3

****3)その3 就寝時刻の夜9時までの3時間、房内放送のプログラムはかなりバラエティにとんでいた。その日のニュースの他、漫才、落語、講談、浪曲に加えて、テレビ小説と称する朗読等が流された。 講談と浪曲は、50年以上も昔の小中学生のころに、祖母と一緒に楽しんだ想い出があるくらいで、その後ほとんど耳にすることがなかった。 その頃我が家にあったのは、小さな真空管式のラジオだけで、NHKの第一放送と第 […]

141 房内放送 -その2

****2)その2 “ピンポンパンポーン! みなさん、おはようございます。今日のラジオ番組のご案内をいたします。“ 房内放送の番組案内である。休庁日(土日祝祭日)には、朝7時45分の点検後に、番組案内が2回繰り返して流される。 平成8年8月4日(日)の房内放送プログラムは次のようなものであった。 09:00 やったぜ、あつあつスポーツ09:30 平成歌謡商店10:00 裕司と雅子のがばっといただき […]

140 房内放送 -その1

***7.房内放送 ****1)その1 私が松江地方検察庁に逮捕されたのは、10年前の平成8年1月26日のことであった。堀江貴文氏が証取法違反容疑で逮捕されたのが、この1月23日のことであったので、季節的には同じ頃である。 厳寒のこの時期、松江刑務所拘置監と東京拘置所とは場所が異なっているとはいえ、あるいは、年齢的にも当時の私は53歳で、堀江貴文氏とは二十歳も年齢が異なっているとはいえ、ある日突然 […]

139 右翼からの激励 -その2

***6.右翼からの激励 ****2)その2 右翼からのホメ殺しは続く、- 「受刑者の皆さん、所内の暮しはいかがですか。先生方(注、受刑者には看守のことをセンセイと呼ばせていた。私のような未決囚にはそのような強制はなかった)とうまくやっていますか。 センセイがあなた達をオイ、コラとどなり散らしたり、ときにはブンなぐったり、あるいは革手錠とか革具を使って締め上げたりされるのを決して恨んだりしてはいけ […]

138 右翼からの激励 -その1

***6.右翼からの激励 ****1)その1 6月8日の朝、風呂をすませ、気分爽快になって独房に帰り、いつものように座り机に向って、古典の書写を始めようとしたときのことであった。窓の外から大音量の声が響いてきた。 察するに、刑務所の正面玄関近くの公道に車を停めて、刑務所にマイクを向けているようだ。私のいた拘置監は外部の道路に近く、外部からの物音がよく聴こえてくる位置にあったのである。 「受刑者の皆 […]

137 自弁品アラカルト -その5

***5.自弁品アラカルト ****5)その5 私の房内には、裁判関連資料、書籍・辞書・パンフレット類の他に、かなりの量の食品があった。 拘置所の食事が質量ともに満足すべきものであったことについては既に記した通りである(※「クサイ飯の実態」を参照)。一日に朝昼晩の三食だけでなく、時にはおやつとか果物さえ支給され、夏期にはアイスクリームとか冷えたスイカまで配給された。こと、食べるものに関しては至れり […]

136 自弁品アラカルト -その4

***5.自弁品アラカルト ****4)その4 房内の検査のことを捜検(そうけん)という。捜索検査の略称であろうか。月に2回位の割合で、担当看守ではない看守が二人一組になって、独房の隅々までことこまかに調べるのである。 「ソウケン!」と一声(ひとこえ)発するや、ガチャガチャと鍵を開け、二人の男が部屋にヌッと入ってくる。房内で何をしていようとお構いなしだ。廊下に連れ出され、外側の壁に向って立たされ、 […]

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