141 房内放送 -その2

****2)その2

“ピンポンパンポーン! みなさん、おはようございます。今日のラジオ番組のご案内をいたします。“



房内放送の番組案内である。休庁日(土日祝祭日)には、朝7時45分の点検後に、番組案内が2回繰り返して流される。

平成8年8月4日(日)の房内放送プログラムは次のようなものであった。

09:00 やったぜ、あつあつスポーツ
09:30 平成歌謡商店
10:00 裕司と雅子のがばっといただき60分
11:00 音楽の風車
12:00 ニュース
12:15 NHKのど自慢
13:00 全国歌謡ベストテン
14:00 山下達郎のサンデーソングブック
15:00 中村正人のサンデーネットワーク
16:00 福山雅治のトーキングFM
17:00 サウンド・アドベンチャー(松任谷由美)
18:00 あなたのための税金相談(スポンサーは国税庁)
18:15 プロ野球中継
20:50 プロ野球中継打切り

休庁日は、起床時間が平日より30分遅く、7時半である。
平日の場合は、7時になると『起床!』の号令と共に、天井の螢光灯がパッとつくのであるが、休庁日は様子を異にする。起床時間である7時半になると、房内放送から軽やかな音楽が流れてくる。一分間位音楽が流れたころに、天井の螢光灯がつく。『起床!』の号令があるときとないときがあり、この8月4日の日曜日には号令が発せられることはなかった。
号令が発せられるときであっても、平常日と違って間延びしたような発声であり、声のトーンが抑えられている。いずれにせよ休庁日の朝はゆったりとした雰囲気の中でスタートする。休息日に対する、官の側の思いやりなのであろう。

朝は6時頃から眼はパッチリとあいている。なにせ、夜の9時には強制的に就寝させられているわけで、いくら寝坊の私でもそんなに長く眠っているわけにはいかないのである。
しかし、7時半にならなければフトンから起き上がることができないし、フトンの中で本を読んだり、ノートにメモなどしてもいけないことになっている。
一度だけ起床時間前に、裁判関係のことでハッと思いついたことがあって、忘れないようにと、フトンの中で腹ばいになってノートにメモをとっていたことがあった。看守に見とがめられてカミナリを落とされ、独房から引っ張り出されて取調室に連行され、叱責処分に付された。判決が確定するまでは無罪が推定されている私のような未決囚に対して、何故このようなことまで規制をしなければいけないのか、今もって理解できない。理不尽である。

朝の音楽が流れてくると直ちにフトンを上げる。時計がないので、起床合図の音楽が流れるのを今か今かと待っているのである。整理整頓をして洗面。
他の房の住人も、私と同じようにこの朝の音楽を待ちかねていたのであろう。拘置監全体が音楽と共に一斉に動き出すのである。

あちこちの房から派手に水道の水を流す音が聞こえ、ガラガラ、ゴーと、うがいをする音がにぎやかに響いてくる。夜の9時から、朝の7時半まで、10時間半もフトンにしばりつけられていた反動からであろうか、あるいは解き放たれた開放感からであろうか、拘置監が一種独得の活気にあふれた雰囲気に包まれるのである。

 

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