136 自弁品アラカルト -その4

***5.自弁品アラカルト

****4)その4

房内の検査のことを捜検(そうけん)という。捜索検査の略称であろうか。月に2回位の割合で、担当看守ではない看守が二人一組になって、独房の隅々までことこまかに調べるのである。

「ソウケン!」と一声(ひとこえ)発するや、ガチャガチャと鍵を開け、二人の男が部屋にヌッと入ってくる。房内で何をしていようとお構いなしだ。廊下に連れ出され、外側の壁に向って立たされ、次いで中腰になるように指示される。壁に向ってしゃがむのである。

ひとしきり房内をかきまわし、検査が終わると、「ソウケン、終り!」の掛声と共に「起立!」の号令が発せられ、房に連れ戻される。
捜検のたびに、揶揄(やゆ)とも嫌味ともつかぬ言葉が看守から発せられるのが常であった。
「品物がやたらに多いのう。たいした金持ちだ。まるでスーパーの店先のようだな。」

たしかに私の部屋には多くのものが運び込まれていた。分量として最も多かったのは、裁判関連の資料であり、A4版のコピーを平たく積み上げた1m程のかたまりが3つあった。
次いで目につくのは、各種辞典とパンフレット類であった。辞典類は房内所持書籍の別口として7冊まで持ち込むことが許されていたので、広辞苑、岩波古語辞典、新明解国語辞典、学研漢和大辞典、万葉集辞典などを常備していたし、パンフレットもこれまた別枠とされていたので、友人に頼んで奈良時代に関連するパンフレットを差入れてもらっていた。友人が奈良から取り寄せたり、あるいはわざわざ奈良まで出向いて手に入れてくれたものだ。
中でも次の6冊のパンフレットは思い出深いものであり、紙がすり切れるほど繰り返し読んで楽しんだ。

+平城宮跡資料館図録(奈良国立文化財研究所、84ページ)… カラー写真がふんだんに用いられ、現在までの発掘成果がコンパクトにまとめられている楽しい読物。
+飛鳥資料館案内(奈良国立文化財研究所、99ページ)… 白黒写真を主としており、1.とは異なった切り口で「飛鳥」を分かり易く解説した読物。
+飛鳥(株式会社飛鳥園、32ページ)… 飛鳥万葉に焦点をあてた解説付写真集。
+「’96藤原京スペシャル」(歴史ウォーク推進実行委員会、121ページ)… 産経新聞社が企画した文化イベント”古代史遊ing”のレジュメ。橿原と明日香を中心とした万葉ガイダンス。
+憧憬古代史の吉野 ― 記紀・万葉・懐風藻の風土記(吉野町経済観光課、133ページ)… 記紀・万葉の吉野について原文を抄録して分かり易く写真入りで解説し、幽玄な吉野の世界に誘(いざな)う。本居宣長の菅笠日記までも取り込んだ労作。
+高岡市万葉歴史館 ― 常設展示と館蔵主要古典籍(高岡市万葉歴史館、37ページ)… 高岡市は、大伴家持が国司として赴任し、5年の任期中に多くの歌を詠んだことで知られている。華麗な越中万葉の世界が、鮮やかなカラー写真を添えた秀歌によって展開されており、一読するや、現地に行きたくてウズウズするような出色の案内書。
パンフレットの入房数が10冊を超えるようになった時、案の定、官からクレームがついた。
パンフレット類ということで入房を許可しているが、内容を見ると書籍ではないかというのである。言われてみれば確かにそうである。書籍であるとすれば、すでに3冊の制限いっぱいに所持しているので、全てのパンフレット類が房内から召し上げられてしまう。
これらのパンフレット類が私の手許から離れるとすれば、私の楽しみが大幅に削られることになる。そうなったら大変だ。
私は一計を案じ、屁理屈をこねまわして抵抗することにした。

「規則に定められているパンフレット類とは何か。書籍とパンフレット類との違いは何か。私が所持しているものはそれぞれ図録とか案内書の類いであり、まさにパンフレット類そのものではないか。
内容的には出来が良く素晴しいものが多いが、そのことをもって書籍と同一視するのはおかしいのではないか。」

規則に示されている「パンフレット類」と「書籍」の定義がなされていない盲点をついたのである。今にして思えば、我ながら姑息なことを考えついたものだ。
願箋を何回か書かされたり、検査の回数を増やされたりしたものの、とうとうパンフレット類で押し通し、房内における数少ない楽しみの手段を奪われることなく、手許に確保することができた。これも粘り勝ちであった。

久しぶりに当時のパンフレット類を取り出しページをめくったみた。すると、なんとも懐かしいしろものが貼り付けられたままになっていた。管理票である。
パンフレットの末尾には、「刊行品許可票」なるものが貼り付けられ、管理されていた。保釈され私有物が返還されるときには、このような管理票は全て剥ぎ取られたはずであるが、上記6冊のパンフレットに関しては、2冊分だけ剥ぎ取られており、4冊分については貼付されたままになっていたのである。
私が最も重宝した1.の平城宮跡資料館図録に貼り残されている管理票は、次のようなものである。

^^t
^cc” colspan=”2″^8.6.11交付分 ※1
^^
^cc” colspan=”2″^刊行品許可票
^^
^cc^物品名
^平城宮跡資料館目(ママ)
^^
^cc^番号
^被002
^^
^cc^氏名
^山根治
^^
^cc^許可月日
^8.8.22 教許
^^
^cc^終了日
^8.8.28 
^^
^ll” colspan=”2″^ 更新  ※2
^^
^rr” colspan=”2″^8. 9. 5 
8. 9. 5 
8. 9.12 
8. 9.19 
8. 9.26 
8.10. 3 
8.10.10 
8.10.21 
8.10.28 
8.11. 4 
8.11.11 
8.11.18 
^^/
※1 ノリしろ部分
※2 用紙つぎ足し部分

 

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