冤罪を創る人々vol.63

2005年05月24日 第63号 発行部数:385部

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「冤罪を創る人々」-国家暴力の現場から-

日本一の脱税事件で逮捕起訴された公認会計士の闘いの実録。
マルサと検察が行なった捏造の実態を明らかにする。
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山根治(やまね・おさむ)  昭和17年(1942年)7月 生まれ
株式会社フォレスト・コンサルタンツ 主任コンサルタント
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●(第五章)勾留の日々

「4.書写と古代幻視」より続く
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5.安部譲二との出会い

一、 平成8年4月3日に借り受けた官本の中に、安部譲二の「つぶ
ての歌吉」があった。
早速読んでみた。面白い。官本は房内にいつまで置いてもよかっ
たので、少しずつ読むことにした。早く読み終えたらもったいない
と思ったのである。

二、 そのころ私は、万葉集の書写に熱中していた。書写の合い間に
気分転換が必要であり、そのために軽い読み物を読むことにしてい
た。一日に一時間位、主に午睡時間を利用して、フトンを敷き横に
なって楽しんだ。
当初弁護人から差し入れてもらったのは、オール読物、小説宝石、
小説クラブ、小説新潮などの雑誌であった。しかし、それらは読む
に耐えないもので、すぐに飽きてしまった。
その後に差し入れてもらったのは、司馬遼太郎の作品であり、気
分転換にはころあいのものであった。
「俄〈浪華遊侠伝〉」を手はじめに、「酔って候」「故郷忘じが
たく候」「最後の将軍」「果心居士の幻術」「言い触らし団衛門」
「われもまた剣法者」が差入られ、房内で楽しんだ。

三、 普段私は、現代作家の作品を読むことはほとんどなかった。こ
とに芥川賞の作品とか、ベストセラーなどは、ただそれだけで私の
興味の外におかれた。
今から40年以上も前のことである。松江商業高校2年の時であっ
た。本田秀夫校長の訓話の中に、郷土が生み出した明治の文豪森鴎
外の名前がしばしばとりあげられた。
これが契機となって私は、文豪の作品に親しむようになり、次第
に鴎外の世界に魅了されていった。その結果、こと日本の現代文学
に関しては、役の行者に呪縛された一言主の神のように、鴎外にい
わば呪縛されてしまったのである。
大学に入ってから、当時若い世代から絶大な支持を得ていたある
芥川賞作家のベストセラー作品を買い求め、読んでみた。人並みに
現代の作家に触れてみようと思ったのである。
しかし、数ページと読み進むことができなかった。文章の余りの
ひどさに胸が悪くなったのである。直ちに読むのを中止し、ゴミ箱
に放り込んだ。日本語が冒涜されていると思ったからである。

四、 鴎外の呪縛から解放され、素直に読むことのできたほとんど唯
一の現代作家は、三島由紀夫であった。
作家は、私が27才、茨城の配偶者の実家で居候をしながら会計
士の試験勉強をしていた時に、東京市ヶ谷の駐屯地で、割腹し、自
ら45年の短い生涯を閉じた。
テレビで三島自決の報に接した私は、しばし茫然とし、固まって
しまった。多くの華麗な作品を生み出した類い稀な才能がこの世か
ら去っていった寂寥感が私を襲った。

五、 異色の経歴を持った著名な作家であることは知っていたが、安
部譲二の作品をそれまで読んだことはなかった。現代作家に対して
アレルギー症的な思い込みがあったために、読む気がしなかったの
である。
それが、独房という活字の乏しい環境の中で、偶然に作家の作品
に出会うことになった。
「つぶての歌吉」 ― つぶて投げという特殊技能を持った男の破
天荒な物語である。活字であれば何でもいい位の気持で読み始めた
が、少し読んでみて驚いた。
単に面白いだけではない。グイグイ引きつける文章力に瞠目した。
これは並の作家ではない。
三島の作品が華麗な日本語をよみがえらせたのに対して、安部の
作品は、端正な日本語をよみがえらせている。しかも気どらない通
俗的な語り口だ。
作家は、相当ハチャメチャなことを語っているが、しっかり抑制
のきいた文章は特有のユーモアをかもし出し、全体が温かい羽毛で
つつまれている。
天性のストーリー・テラーなのであろう。同じ内容を他の人が表
面的に真似て書き上げたとしたら、とても下品なものになるに違い
ない。
作家の知性とユーモアが、豊かな体験に裏打ちされて、巧みな言
葉の中に包みこまれている。まさに安部ワールドといったものが展
開されていくのである。

六、 私は、作家の他の作品も読んでみたくなった。
作家のデビューを飾った「塀の中の懲りない面々」が独房に入っ
てきたのは6月7日のことであった。独房に運んできた看守が、か
なり複雑な顔をしていたのが印象的であった。塀の中にこの本を差
入れてもらう人はあまりいないのかもしれない。
この作品は独房内の私に、心からの愉悦を与えてくれた。それは、
書写の気分転換を超えるものであった。
加えて、願箋とか自弁とかの塀の中の専門用語が随所に用いられ
ており、臨場感をもって読み進むことができた。誠に得難い体験で
あった。
その後、「塀の中の懲りない面々(2)」「塀の中のプレイボー
ル」「賞あり罰あり猫もいる」「塀の外の男と女たち」が次々と入
房し、私は多彩な人間模様が織りなす安部ワールドに包み込まれる
こととなった。
塀の中の楽しいひとときを作家によって与えられた私は、豊かな
気持に包まれて、再び日本の古代に遊ぶことができたのである。

七、 保釈されてから、「つぶての歌吉」(朝日文芸文庫)10冊を
買い求め、入院等をして無聊をかこっている友人達に贈った。

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●山根治blog (※山根治が日々考えること)
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「ホリエモンの錬金術 -10」より続く
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・ホリエモンの錬金術 -11

堀江さんは、これといった収益構造を持っていない、いわばほと
んど実体のない零細企業を、いくつかのトリックを用いて将来性の
あるもっともらしい会社に変装させて、東証マザーズに上場させる
ことにまんまと成功しました。

当時、このような会社の実態が明確に開示されていたならば、い
くら上場規制が緩和されていたからといって、とうてい上場許可は
下りなかったことでしょう。幹事証券会社とグルになって、東証マ
ザーズを騙したのです。

自らの“完全犯罪”に自信を持つにいたったのでしょうか、イン
チキ上場から4年余りが経過した昨年、どうだと言わんばかりの本
が出版されました。「堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方」
(ソフトバンクパブリッシング刊)がその本で、すでに述べたよう
に、ウソとホントをこき混ぜた奇書とでもいうべきシロモノです。

企業会計とか、会社法とか、あるいは会社経営の最低限の知識さ
えスッポリと欠落している人物の手になる綴り方で、そのためでしょ
うか、一人よがりの思い込みだとか、明らかに事実に反することが
らが、論理的整合性などお構いなしに臆面もなく開陳されています。

しかし、全てがウソではありません。堀江さんが必死になって隠
蔽しようとしている“真実”がチョロチョロと顔を出しているので
す。堀江さんは案外“正直”な人かもしれませんね。

私は、第8回で、ホリエモンのトリックを破るキーポイントは、
有馬晶子(有馬純一郎さんを含む有馬家)さんとの取引であると述
べました。

法定資料で開示されている有馬さん絡みの以下の4つの事実は、
ウソである可能性が高く、それが立証されるならば、ホリエモンの
“完全犯罪”はもろくも崩れてしまうのです。

1.平成10年4月30日、額面金額一株5万円で、有馬晶子→堀江
貴文へ48株、有馬晶子→宮内亮治へ2株、譲渡されたこと。

2.平成10年8月3日、額面金額一株5万円で、堀江貴文→和井内
修治へ5万円で、堀江貴文→小飼弾へ4株、譲渡されたこと。

3.平成11年11月5日、一株300万円で、有馬晶子→堀江貴文
へ120株、譲渡されたこと。譲渡価額3億6千万円。

4.上場直前の株式960株(評価額57億6千万円)が有馬純一郎
名義であること。

この1.~4.は互いに密接に関連しているもので、私の結論は、
4つ共全てウソであるということです。
では、真実はどうだったのでしょうか。私の推断は次の通りです、-

(1)資本金1千万円から3千万円増資して4千万円になった段階で
の株主構成は、

堀江貴文 400株
有馬晶子 320株
有馬純一郎 80株
合計  800株

であった。

(2)堀江貴文は、(1)の後、有馬親娘の株式400株の全てを譲
り受けた。但し、支払いは、上場後の約束であった。
譲渡価額は、

1. 5億円 一株125万円
2. 3億6千万円 一株90万円
3. 2億4千万円 一株60万円
4. 1億2千万円 一株30万円

のうちの、いずれかであった。最も可能性の高いのは、3.の2億
4千万円である。

(3)有馬純一郎名義の株式80株は、堀江貴文の所有になったもの
の、有馬純一郎名義のままとし、上場直後の売却に備えた。この80
株は、上場直前に12分割がなされているので上場時点では960
株(評価額57億6千万円)となっている。

(4)堀江貴文は、(3)の株式を上場直後の、平成12年4月25
日に20株を一株370万円で売り抜けたのを皮切りに、同年6月
7日に202株を一株173万円で売り抜けるまで、38回にわたっ
て合計で342株を売りぬけ、667,890千円の現金を手にし
た。
残りの618株(960株-342株)も、平成12年9月30
日までに全て売却し、総額で20億円前後の現金を手にした。

(5)(4)によって得た資金のうちから、有馬親娘からの株式買取
代金(おそらく2億4千万円)の支払いがなされた。

以上の推断は、堀江さんの著書の第1版と第3版の相違点を分析
し、この5年の間に会社が証取法の規定に基づいて提出し、開示し
ている法定資料を分析、照合した結果到達したものです。

私の推断が単なる推定に終らず、確信に近いものとなったのは、
私がこの3ヶ月程の間に通査した3000枚以上の関連法定資料の
中の“1枚”に遭遇したからでした。

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“純一郎空の菓子折り持ち歩き” -札幌、佐藤康子。
(毎日新聞:平成17年4月21日号より)

(中味に欠ける小泉さん。有馬さん、あけてびっくり玉手箱)

 

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