原発とは何か?-⑮

 本稿の⑩(「原発とは何か?-⑩」)において、東京電力の平成23年3月期の決算では賠償金が未計上であったことに加え、今一つ従来の決算とは異なる突出したものがあることを指摘した。

 本稿の⑪(「原発とは何か?-⑪」)において、それが期末日における2兆円を超えるキャッシュであり、その大半である1兆9,650億円が、期末日に大手銀行8行からの無担保・無保証融資によって調達されたものであることを明らかにした。

 本稿の⑫~⑭(「原発とは何か?-⑫」「原発とは何か?-⑬」「原発とは何か?-⑭」)において、この2兆円は財政状態が毀損していないことを演出するための「みせ金」であると共に、1兆9,650億円の銀行融資は、正規の融資とは言い難いものであり、融資が実行された時点では融資金の回収可能性がゼロに近いことから、不正融資の疑いが濃厚であることを論じた。

 1兆9,650億円の巨額融資。尋常ならざる状況にある東京電力に対して、無担保・無保証でなされた緊急融資である。
 政府筋からこの融資に関して何らかの働きかけがあったのではないか、「暗黙の政府保証」がなされたのではないかと国会で質されたのに対して、銀行側は全面的に否定し、それぞれの銀行が独自の判断で行ったものであると弁明した(「原発とは何か?-⑪」参照)。
 銀行側が主張していることが真実である場合はもちろんのこと、政府筋からの働きかけがあり、「暗黙の政府保証」がなされていたり、あるいは私が考えるように、事実上の政府保証が文書でなされていたとしても、空(から)證文だ。いずれにせよ、この巨額融資が法的に無保証であることに変りはない。国の債務負担行為は、しかるべき手続きを経て国の機関(この場合は国会であろう)の承認が必要とされるものであり、この巨額融資についてはこのような承認がなされた形跡がないからだ。仮に次官とか審議官クラスの役人が、口頭あるいは文書によっていくら確約をしようとも、国の債務負担行為とはならないのである。このことは、融資に応じた8行とも熟知しているはずである。

 融資にあたって予め説明された(であろう)東京電力の救済スキーム(「原発とは何か?-号外(パンドラの箱)」参照)が実際に効力を持つためには、それが法案化され、かつ国会の議決を経て法律として成立することが必要だ。その間、貸し手である銀行側は無担保・無保証の状態が継続することになる。

 巨額融資関連の経緯を時系列で示せば、次のようになる。
+平成23年3月30日、東京電力の勝俣恒久会長、記者会見の場で原賠法第3条ただし書の適用主張を事実上撤回。
+平成23年3月末日、1兆9,650億円の無担保・無保証融資実行。
+平成23年5月10日、東京電力が政府に対して支援要請。
+平成23年5月13日、賠償に関する政府支援の枠組みについて、「原子力発電所事故経済被害対応チーム関係閣僚会合」決定。
+平成23年6月14日、賠償に関する政府支援の枠組み(東京電力救済スキーム)について、閣議決定。
+平成23年6月14日、「原子力損害賠償支援機構法案」閣議決定、国会に提出。
+平成23年7月8日、「原子力損害賠償支援機構法案」国会に上程。法案の趣旨説明と質疑応答。
+平成23年7月8日~同年7月26日、東日本震災復興特別委員会(8回開催)において審議。
+平成23年7月25日、第2次補正予算(2兆円の交付国債、2兆円の政府保証枠計上)成立。
+平成23年8月3日、原子力損害賠償支援機構法案に対する付帯決議。「本法は、東京電力を救済することが目的でない」ことを確認し、4.の閣議決定に付されている「具体的な支援の枠組み」(東京電力を無条件に救済するスキーム)はその役割が終ったことを明記し、東京電力に対して法的破綻処理、もしくはそれに準ずる措置ができる道を残した。
+平成23年8月3日、「原子力損害賠償支援機構法」成立。
 銀行側としてみれば、東京電力に対する政府支援の枠組みが閣議決定されるまでの2ヶ月半の間(1.と5.の間)気が気でなかったであろう。しかも、その間、当時の枝野幸男官房長官が銀行の債務免除を要請することもありうるなどと発言して、会社更生法もしくは会社更生法類似の法的措置を示唆しているのである。
 株価は融資実行日の466円から更に下落し、法案が閣議決定される(6.)直前には最安値、つまり、平成23年6月9日には148円をつけるまでに到っている。原発事故直前(平成23年3月10日終値)の株価2,153円と比較すると、実に93%の下落である。株式市場では、日本航空のときと同様に、法的破綻処理に移行する可能性を踏まえて、この日の東京電力の出来高は、4億株を超える最高取引高を記録し、経営破綻直前に繰り広げられる投機的相場の様相を呈している。
 何とか無事に2つの法案(第2次補正予算案と原子力損害賠償支援機構法案)は国会を通過(9.11.)したものの、融資に先立って提示された(であろう)東京電力の救済スキーム(5.)は、金融機関の融資については国会の付帯決議によって事実上骨抜き(10.)にされてしまった。

 銀行側にとっては一難去ってまた一難、原発事故の後になされた巨額融資の疵(きず)が癒えること(疵瑕の治癒)はない。東京電力と大手銀行8行の経営者、合わせて100人を超える人達の眠れない夜がこれからも続くのではないか。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“気が遠くなりそな自民の尻ぬぐい” -富士見、風流者。

 

(毎日新聞、平成23年9月21日付、仲畑流万能川柳より)

(55年の保守合同以来、国民を騙しつづけてきた政党。その真の姿を浮かび上がらせたのが、福島県民だけでなく国民全体をとり返しのつかない、不幸に陥(おとしい)れた原発事故であった。)

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