原発とは何か?-⑪

 東京電力の経営陣が行った異常な行動とは何か。その異常な行動の軌跡とは何か。

 ズバリ、お金である。決算期末の現金預金が突出して多くなっている、一年前と比較して、ナント2兆572億円(連結では2兆681億円)も多くなっているのである。

 東京電力はどのようにして2兆円ものキャッシュを調達したのか不審に思ったので決算書を見てみると、長期借入金が一年前と比べて1兆8,138億円(連結では、1兆8,094億円)増加していることが判った。

 この借入金による資金調達がいつなされたのかについては、開示資料では明らかにされていない。そこで、決算期日の3ヶ月前のそれぞれの残高を調べてみたところ、決算直前の3ヶ月間で、

-現金が1兆8,643億円(連結では1兆8,817億円)

-長期借入金が1兆8,471億円(連結では1兆8,571億円)

それぞれ増加していることが判明。(平成23年1月31日開示の平成23年3月期第3四半期決算短信)。

 東京電力はこれまで資金繰りの心配など全くする必要のない会社であった。年間5兆円台の安定収入があり、しかも売掛金の回転率は14回転を超えている(売掛金の回収期間はナント25日!)。支払手形はゼロであり、買掛金、未払費用は4,000億円前後であるから、手許資金はさほど必要としない。社債を含めた金融債務は7兆円余りと売上高の1.5倍ほどしかない。設備投資については社債を発行すればよく、銀行に頭を下げる必要はない。年間の減価償却費は7,000億円、返済財源は潤沢である。
 その上、赤字になるようであれば事実上の税金である電気料金を値上げすればよいときている。
 一般の会社が利益の確保と資金繰りに四苦八苦しているのと比較すれば、別世界の存在だ。
 このような状態が3.11の原発事故が起るまで続いていたと考えて差しつかえない。従って、決算直前の3ヶ月間というのは、平成23年3月11日~3月31日の20日間に絞り込まれることになる。
 つまり、1兆8千億円余りの借入金をして、1兆8千億円余りの現金預金を積み増したのは3.11の事故の後であるということだ。この借入金は長期借入金であるから、返済期日は平成24年4月1日以降ということになる。
 開示されている資料から判ることはここまでである。

 東京電力の経営者が、3.11事故の後、何故あたふたとして1兆8千億円余りの借入をして、2兆円以上の現金預金を期末残高として用意したのか、気になっていた。同時に、原発事故の直後、東京電力の株価は暴落し、債務超過、ひいては倒産というシナリオが現実味を帯びていた時に、銀行は何故敢えて1兆8千億円余りの巨額融資に踏み切ったのか、その理由が理解できなかったのである。

 そこで、ネットからの情報を探してみたところ、この点に関して国会の場で取り上げられ議論がなされていることが判った。その他の情報源を合わせると具体的な事実関係は次の通り。

+融資総額:1兆8,650億円。
(内訳)

三井住友銀行 6,000億円
みずほコーポレート銀行 5,000億円
三菱東京UFJ銀行 3,000億円
その他5行 4,650億円
合計 1兆8,650億円

+融資実行日:平成23年3月末日。
+融資条件
1)融資期間3~10年
2)無担保
3)金利は事故前と同一
+融資にあたって、金融庁、経産省からの働きかけがあり、「暗黙の政府保証」がなされたのではないか、と国会で質されたのに対して、銀行側は全面否定。それぞれの銀行が独自の判断で行ったと主張。
 以上は、次の1)~3)による。

1)東日本大震災復興特別委員会(平成23年7月13日開催)における柿澤未途氏(みんなの党)の質疑と永易克典氏(全国銀行協会会長)の答弁。(「第177回国会 東日本大震災復興特別委員会 第12号(平成23年7月13日(水曜日))」参照)
2)奥正之氏(当時の全国銀行協会会長)の平成23年5月19日記者会見。(「会長記者会見|全国銀行協会」)
3)「東電支援の舞台裏、2兆円緊急融資、大手銀は即決、薄氷の公的管理第1幕」(日本経済新聞、平成23年5月29日付記事)

 巨額の緊急融資について、上記の1.~3.は事実であろう。私が東京電力の決算書をベースに導き出したところと概ね一致しており、矛盾するところがないからだ。
 しかし、4.については大きな疑問が残る。融資の目的、理由について、銀行側は国会とか記者会見の場であれこれともっともらしい弁明をしているが、事実ではあるまい。東京電力が緊急融資の要請に至った経緯については、3)の日経記事に記されているが、これは東京電力側のストーリーを記者が鵜呑みにしてそのまま記事にしたものであって、これまた事実ではあるまい。

(この項つづく)

***[追記]
 平成23年10月3日に公表された、「東京電力に関する経営・財務調査委員会の委員会報告」(P.107)によれば、緊急融資の総額は1兆9,650億円、平成32年度までに1兆9,210億円弁済予定。

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“土下座してあとは上座にいる社長” -湯沢、菊池潤朗。

(毎日新聞、平成23年9月5日付、仲畑流万能川柳より)

(『殿様が耐え難きを耐え、しのび難きをしのんで土下座までしてやった。ナンカ文句でも?』-勝俣恒久会長)

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