原発とは何か?-⑬

 巨額緊急融資について、次に東京電力側の言い分を検討する。前掲の日経記事(「東電支援の舞台裏、2兆円緊急融資、大手銀は即決、薄氷の公的管理第1幕」参照)によれば、“「このままでは、そう遠くない時期に資金ショートしてしまう」。東京電力の武井優・財務担当副社長のもとに社内の各部門から資金要請が殺到した。東電は自力で市場から資金調達できなくなっていた。5000億円弱の手元資金は夏にも底をつく恐れが出てきた。”“3月末の社債償還期限に資金繰りの内情が市場に伝わったら、社債も株式も暴落する――。時間切れが迫る中、東電は異例の「持ち回り取締役会」で緊急融資の要請を決め、3月18日に各取引銀行に連絡した。
 総額は2兆円。社債の償還に5000億円、火力発電の燃料調達に8000億円……。「2兆円あれば、社債が発行できなくても1年間は何とかしのげる」と考えた。“ この記事を書いた日経の記者は、大真面目に取材したものと思われる。東京電力の財務の責任者が上のような趣旨の話をしたことも事実であろう。

 いま仮に、取材に応じた東京電力の幹部の話がそのまま日経の記事に反映されているものとして検討することにする。

 まず、財務担当副社長のもとに、社内の各部門から資金要請が殺到したと言っているが本当か。
 前回(「原発とは何か?-⑫」参照)記したように、東京電力は3.11の事故が起るまでは財務的には超優良企業であった。収入が安定している上に、資金回収期間はわずか25日という普通の企業では考えられないほど恵まれた状況にあった。手形も発行していないし、手許資金をそれほど準備する必要がなかったのである。電気事業法によって、電力会社は全ての経費(ナント、この中には減価償却費だけでなく、法人税の支払いまでも含まれている!!)に事業報酬と称する利益を上乗せしたものが、そっくり電気料金によって回収される仕組みになっている(電気事業法第19条第2項一、一般電気事業供給約款料金算定規則)からだ。この事業報酬、支払利息、配当金の支払い、利益剰余金を確保するためのものだそうである。
 たとえば、東京電力の場合、税引後(!)の利益として、必ず売上高の3%強が法律によって保証されているのである。つまりこれまでは、配当金(800億円)を支払っても、毎年必ず700億円以上の剰余金が残る仕組みであった。詳しくは別稿で論ずる予定である。

 3月の時点で、手許資金が5,000億円弱あったとすれば、年度末に予定されている社債の償還に充当するために、資金を普段よりは多めに手許に置いていたからであろう。
 ちなみに、平成23年3月期の社債の償還額は4,302億円、このうち、平成22年12月末までに2,350億円償還しているので、残りの1,952億円は期末前3ヶ月間に償還されたことになる。仮に、この1,952億円の償還が3月末になされたとするならば、そのための資金手当として用意されていたものであろう。
 従って、手許資金が5,000億円あるとすれば、平成23年3月31日までの社債償還資金は十分に賄える。その他の資金需要としては、買掛金等の支払いがあるが、これについても不足するところはない。
 原発事故に関しては平成23年3月期の決算で1兆204億円の特別損失が計上されているが、これはほとんど全てが未払いだ。つまり、決算期末までに必要とする資金は存在しない。
 とすれば、

“社内の各部門から資金要請が殺到した”
“3月末の社債償還期限に資金繰りの内情が市場に伝わったから、社債も株式も暴落する。”

というのは事実に反する可能性の高い、タメにする発言ではないか。
 更には、

“5,000億円弱の手許資金は夏にも底をつく恐れがでてきた”

というのも、タメにする発言であるようだ。

 原発事故による損害金の支払いについては、その額があまりにも大きすぎて、東京電力が逆立ちしても不可能だ。中でも10兆円を超えると想定されている賠償金については、東京電力としてはもともと支払うつもりなど全くない。原賠法の規定によって、賠償責任が事実上免除されているからだ。既に述べたように(「原発とは何か?-⑦」参照)、法律上は無過失・無限の賠償責任が課せられてはいるものの、賠償額が賠償措置額(1,200億円)を超える場合には、政府に対して支援を求めることができる仕組みになっている。

 ところが、東京電力は更にエスカレートして、賠償責任そのものが法律上存在しないと言い始めた。原発事故の直後、東京電力の幹部は、

「このたびの原発事故は、想定外の津波、つまり“異常に巨大な天災地変”(原賠法第3条第1項、ただし書)である」

と言い募り、言外に東京電力には損害賠償義務を含むすべての事故責任が存在しないことを匂わせていた。
 しかし、福島第一原発を襲った天災地変(地震・津波)は、原賠法制定の立法趣旨に照らして“異常に巨大な”ものとは客観的に言えない上に、仮にそのように認定されるとしたら損害賠償義務が宙に浮いてしまうことになる。何故か。

 法律では、

“政府は、第三条第一項ただし書の場合…においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする”(原賠法第17条)

と定められているだけで、政府の賠償義務までは定めてはいない。
 するとどうなるか。
 原子力損害の賠償については、原子力事業者(東京電力)に無過失かつ無限の賠償責任が課せられている(原賠法第3条)だけではない。原子力事業者以外の者は賠償責任を負わない(原賠法第4条)と定めて、賠償責任を原子力事業者に集中させている。賠償責任の無過失、無限に加えて、責任の集中と称されるものだ。
 つまり、仮に“異常に巨大な天災地変”に該当するとされるならば、東京電力には賠償責任が法律上存在しないことになると同時に、国の措置としても”被災者の救助及び被害の拡大の防止のために必要な措置を講ずる“(原賠法第17条)ことにとどまり、損害賠償にまでは及ばない。東京電力も国も、あるいは他のいかなる者も損害賠償義務がないということになり、賠償責任が完全に宙に浮くのである。国会でもこの点が問題とされ、現実には適用ができない規定であることが明らかにされている(平成23年7月12日開催の東日本大震災復興特別委員会における西村康稔委員(自民党)の質問と梶田信一郎政府参考人(内閣法制局長官)の答弁。)

(この項つづく)

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 ここで一句。

“女房がもう黙れと言う咳払い” -坂戸、グランパ。

(毎日新聞、平成23年9月10日付、仲畑流万能川柳より)

(女房関白。)

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