原発とは何か?-号外(パンドラの箱)

***-パンドラの箱

 原発に関しては、東京電力の福島第一原発の悲惨な事故以来、各方面から様々な人達の意見が相次いでいる。しかし、原発推進にせよ、原発反対にせよ、いずれを見ても決め手に欠ける神学論争の域を出ないものが多かった。

 事故を起した原発を運営していたのは東京電力という上場企業である。ところが、経営体としての東京電力とは何かについて、真正面から取り組んだ論述が見当たらない。

 一般的に言って、上場企業を分析するのに欠かせないのは有価証券報告書である。この法定書類は企業分析のスタートとなるものであり、基本中の基本だ。信頼できる企業情報の宝庫である。ここにギッシリとつまった情報をベースとしない企業分析は中味に欠けた空疎なものになり易い。

 ところが東京電力、つまり、福島第一原発の事故を起した問題企業を論ずる上で、東京電力の有価証券報告書をベースにしている人は、私の知る限り一人もいなかった。

 事故直後に決算期を迎えた平成23年3月期の有価証券報告書が開示されたのは、今から2ヶ月半前の平成23年6月29日のことであった。
 この報告書、監査実務に携(たずさわ)る職業会計人であれば誰しも一目で分かるほどオソマツなものであり、監査人の監査報告書も同様にオソマツなものであった。有価証券報告書虚偽記載と監査報告書の虚偽証明が歴然としていたのである。

 東京電力は腐っても鯛である。戦後間もない昭和26年の設立以来、文字通り日本のリーディングカンパニーとして君臨し、政治・経済の分野で絶大な影響力を行使してきた。
 東京電力は民間会社の形をとってはいるものの、その内実は国策会社そのものであった。そのような会社が何故、ミエミエの姑息な手口をつかって有価証券報告書を歪めなければならなかったのか。私にはその理由がしばらくの間判らなかった。

 ところがその後、一つの法案の成否が密接にからんでいることが判明した。「原子力損害賠償支援機構法」(以下、支援機構法という)だ。平成23年6月14日に法案が閣議決定され、同年7月8日に衆議院本会議に上程され、東日本大震災復興特別委員会(8回開催)で審議された後、同年8月3日に成立した法律である。
 この法案を通すためには、東京電力が経営的に破綻、つまり自力で立ち直れないような債務超過でないことが不可欠の条件であった。支援機構法は原賠法第16条の規定に基づいて作られるものであるが、この規定は債務超過に陥った原子力事業者(東京電力)を救済するためのものではなかったからである。
 このために、東京電力は監査人と話し合った上で平成23年3月期の決算書に不正の手を加えたものと思われる。腐っても鯛どころではない。プライドを放り投げて本当に腐り切っていたのである。あるいは、腐った鯛が夢よもう一度とばかりに、蘇生しようと悪あがきしたとも言えようか。
 しかし、腐った鯛がゾンビのように蘇ることはできない。今からでも遅くはない。丁重に引導を渡し、成仏させてやるのが供養というものだ。そのためには取り急ぎ東京電力の上場資格を問えばよい。かつて「ホリエモンの錬金術-5」で指摘したところと同断である。

 この工作は、もちろん東京電力が単独でできることではなかった。
 財務省、内閣府(金融庁)、経済産業省、文部科学省の役人と思われる連中と一緒になって東京電力救済のスキーム(別添)をつくり上げ、決算期日直前に大手銀行8行に2兆円弱の緊急融資(不正融資)をさせるという演出まで仕組んで仕上げた綿密な工作であった。腐った鯛を生きかえらせようとする、東京電力生き残り大作戦である。このスキームの要(かなめ)となり前提となるのが、平成23年3月期の有価証券報告書(虚偽記載)であり、監査報告書(虚偽証明)であった。これらの報告書に、少なくとも上場維持の妨げとなるようなキズをつけることは何としても避けなればならなかったのであろう。

 閣議決定(平成23年6月14日)の中に、

「機構は、原子力損害賠償のために資金が必要な原子力事業者に対し援助(資金の交付、資本充実等)を行う。援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない。」

という目を疑うような一節がさりげなくもぐり込んでいる。この中で用いられている、無条件の「援助」、「設備投資等」、「債務超過にさせない」という3つの字句は、明らかに原賠法第16条の趣旨から外れるものだ。菅直人総理以下の閣僚をどのように騙したのかは定かではないが、やりたい放題である。国会の審議においても、菅総理をはじめとする担当大臣に理由にならない理由を適当に答弁させて、法案を押し通してしまった。傍若無人の振舞いである。

 私はこの連載で順次これらのことを明らかにすると同時に、原発というパンドラの箱の中味を明らかにする予定である。本稿の論述がいささか煩瑣(はんさ)になっているので、読者諸氏の理解に資するために予めその概要をお知らせするものである。
 尚、近日中に、次の題目のもとで講演する予定であり、そのレジュメをここに掲載する。

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『原発とは何か?』

財団法人島根総合研究所
理事長・公認会計士 山根治

 東京電力の経営分析によって判明した原発のタテマエ(発電所)とホンネ(核兵器工場)、原発を支える電気料金の驚くべき実態を明らかにする。

***(ポイント)-原発はパンドラの箱だった。パンドラの箱を開けたのは、原発事故であり、タブーであった箱の中をかき回そうとしたのが、菅直人総理であった。
+有価証券報告書(東電、平成23年3月期)-偽りの報告書(有価証券報告書虚偽記載)
+東電救済のシナリオ-2兆円の小細工(不正融資)
+原賠法(昭和36年)-無責任の制度化
+電気事業法(昭和39年)-関係者にアメ(裏ガネの温床)
+電源三法(昭和49年)-自治体にアメ
+アメリカの公文書開示(50年後)-ホンネの暴露
+読売新聞社説(平成23年9月7日付)-ブラック・プロパガンダの破綻

***別添 東京電力救済のためのスキーム
「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府支援の枠組みについて」(平成23年5月13日、原子力発電所事故経済被害対応チーム関係閣僚会合決定)に添えられている支援の枠組み。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/songaibaisho_110513_01.pdf
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