ホリエモンの錬金術 -12

その“1枚”とは何か。



堀江さんは、上場から2ヶ月余りの後の平成12年6月16日に、関東財務局長宛に「大量保有報告書」を提出しています。証取法第27条の23第1項に基づくものです。

この報告書は、備え付けの用紙に手書きされており、A4版で3枚から成っています。署名は相当クセのある字ですので、堀江さんの自筆でしょう。資料Hに掲げたのがその3枚です。
私が注目したのは、3枚のうちの最後の1枚でした。そこには、堀江さんが保有している株式7,920株の取得資金の内訳と借入金の内訳とが明らかにされています。
取得資金は269,000千円とされ、内訳は、自己資金29,000千円、借入金240,000千円となっていて、株式公開情報の記載と大きく矛盾するものではありません。

つまり、
+平成11年11月4日、現在の所有株式は580株で、一株5万円で取得していますので、その取得資金が29,000千円ということでしょう。ただ、この29,000千円全てを自己資金としているのは疑問ですね。上場前には個人のキャッシュはほとんどなかったはずです。
+平成11年11月5日、有馬晶子さんから一株300万円で120株購入、その購入資金は3億6千万円。この資金はどこかから借りたのでしょう。
+平成11年12月17日、大和証券SBCM株式会社へ30株、株式会社光通信パートナーズへ10株、それぞれ一株300万円で譲渡、その譲渡代金は1億2千万円。
+3.の譲渡代金1億2千万円を2.の借入金3億6千万円の返済に充てたものとすれば、借入金の残高は2億4千万円となります。
このように、29,000千円全額を自己資金で賄ったとしているのに疑問が残りますが、借入金2億4千万円については金額的にはツジツマが合います。
ところが、この2億4千万円の借入金の内訳を見るに及んで、びっくりしてしまいました。目を疑いましたね。
ナント、有馬純一郎さんから借りたというのです。これはまた一体どういうことでしょうか。

私は、この“1枚”に出会うまでは、有馬晶子さんからの株式買取に要した3億6千万円は、てっきり株式会社光通信あたりから借りたものとばかり思っていました。
また、堀江さんは、本の中ではこの買取資金を5億円であるとして、銀行から短期借入として個人で借りたと言っていますが、冗談でしょう。
5億円の借入金は、上場後に返済する約束であったと、まことしやかに述べているのですが、上場を準備していたとはいえ、まともな利益を出していない設立後いまだ日の浅い会社の社長に、5億円を融資する銀行があるでしょうか。個人資産もゼロに近い状態どころか、自己資金として報告した株式の取得資金29,000千円のほとんどは、有馬純一郎さんから借りたものですので、個人資産はマイナスの状態であった堀江さんに対して、通常の銀行であるならば5億円はおろか、1千万円でさえ貸すことはなかったでしょう。現在の銀行の融資システムの上ではまず不可能だからです。

仮に百歩譲って、真実、堀江さんに対して銀行が5億円の短期融資に応じていた場合を想定してみましょう。
本の中で、堀江さんは、

“その翌年、東証マザーズへの上場は成功したけれども、売るタイミングがなかなかなくて返済はすぐにはできず、銀行に一度は繰り延べしてもらった。でもその後は、きちんと返済し、借金はなくなっている。”
(前掲書、P.120)

と言っています。ジョーダンが次第にエスカレートしてきました。
銀行の短期貸付は、一年以内に返済する約定のもので、通常は長くとも半年で切り替えするケースが多いものです。
堀江さんは、“一度は繰り延べしてもらった”と言っていますので、通常であれば、その返済期限は、平成12年内となります。どんなに長くとも平成13年12月末を超えることはないでしょう。堀江さんは、自分の持株を売って5億円の返済をしたと言っているのですが、この期間(平成12年4月~平成13年12月末)にそれに相当する株式の売却収入はありません。彼が6億円余りの売却収入を手にするのは、上場から2年4ヶ月が経過した平成14年8月のことなのです(「ホリエモンの錬金術 -6」資料A参照のこと)。
つまり、5億円を返済したと言っている時期に、返済財源が存在しない訳で、彼が本の中で“上場後に返済した”と言っていることも事実でないことが判ります。

前述の通り、この3億6千万円は、ツルんでインチキ上場を計画した株式会社光通信の重田康光さん(堀江さんは平成10年に初めて出会い、2年近くの間、2人でゴマカシのシナリオを練っていたようです)あたりから個人的に借用して小細工したものとばかり思っていたのですが、有馬晶子さんの父親である有馬純一郎さんから借用したものであるとすれば、事情が大きく異なってきます。
有馬晶子さんと有馬純一郎さんとは、娘と父親の間柄です。しかも、会社に出資したお金に関しては、全て父親が負担しており、株式の名義は娘である有馬晶子さんであったとしても、実質的にはスポンサーである父親のものであると考えるのが順当でしょう。
するとどうなるでしょうか。有馬晶子名義の自分の株式120株をホリエモンが買い取るための資金3億6千万円を、自分がホリエモンに貸し付けるというまことに奇妙なことになります。
つまり、自分が出した3億6千万円が形の上ではホリエモンを経由して直ちに自分に戻ってくる訳で、実際のキャッシュの動きはないことになります。私が、この3億6千万円の取引が実際には行なわれていない架空の取引であると推断するのは、このようにキャッシュの動きがなく、見せかけのものであると判断したからです。

そこで、残されている有馬純一郎さん名義の株式960株が上場後にどのようになっていったのか、追跡してみました。その結果、トリック(300万円という架空株価)をゴマかすための小細工という、当初想定していた枠をはるかに超えるインチキの実態が浮かんできたのです。

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“銅像にけっこうなってる悪い人” -北九州、秀丸。

 

(毎日新聞:平成17年4月25日号より)

(そのうち“平成のITベンチャーの雄”なる銅像がどこかに建立されるかも。)


***●資料H
※クリックすると各大量保有報告書が表示されます。

****「大量保有報告書(平成12年6月16日)」 P.1
大量保有報告書1

****「大量保有報告書(平成12年6月16日)」 P.2
大量保有報告書2

****「大量保有報告書(平成12年6月16日)」 P.3
大量保有報告書3

 

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