脱税Gメンを犯罪人として告発!!-⑨

 判例4.(承前)



 更にこの判決4.が「ことさら判決」と呼ばれている部分を、原審・東京高裁の判決文から引用する。「所得税脱税罪を規定した所得税法第二百三十八条第一項(同法に依る改正前の所得税法第六十九条第一項(下線は筆者)に謂う「偽り(詐偽)その他不正の行為」とは、同税逋脱の意図を以て、その手段として、同税の賦課(下線は筆者)、徴収を不能若しくは著しく困難ならしめる様な何等かの偽計その他の工作を行なうことを謂うものと解すべきであるから(昭和四十二年十一月八日最高裁判所大法廷判決、最刑集二一巻九号一一九七頁以下参照-本稿での判例1.のこと)、斯る「偽り(詐偽)その他不正の行為」(下線は筆者)を伴わない所謂単純不申告(所得税法第二百四十一条、改正前の同法第六十九条の四各参照)の場合には、仮令同税逋脱の意図による時と雖、叙上所得税脱税罪は成立せず、又単に誤算、忘却等の不注意に因り、所得税確定申告書に記載すべき所得の一部を遺脱した所謂単純過少申告の場合には、右犯罪の故意を欠き同罪は成立しないが、右判例は、同罪の構成要件である「偽り(詐偽)その他不正の行為」の意義に付て、苟も所得税逋脱の意図を以て、その手段として、同税の賦課(下線は筆者)、徴収を不能若しくは困難ならしめる様な何等かの偽計その他の工作を行うものである限り、その種類、態様の如何を問わない趣旨に出たものと解せられるので、虚偽の収支計算書の提出、二重帳簿の作成、正規帳簿の秘匿若しくは之えの虚偽記入等、特別の工作を行なうことは固より、斯る特別の工作を行なわず単に所得を隠蔽し、之が課税対象と成ることを回避すべく、所得金額及び之に相応する所得税額を殊更過少に(下線は筆者)記載した内容虚偽の所得税確定申告書を政府に提出する(下線は筆者)ことも亦右「偽り(詐偽)その他不正の行為」に該当すると解して妨げない」

 以上が、「ことさら判決」の具体的内容の概要であるが、つっこみどころ満載である。まさに、味噌(所得税=直接税)も糞(物品税=間接税)も一緒にした、しかも、実体法である国税通則法の規定を無視した、ナントもオソマツな判決と言わなければならない。

 まず、筆者が下線を引いた部分を抜き出してみる。
+同法に依る改正前の所得税法第六十九条第一項
+「偽り(詐偽)その他不正の行為」(二回)
+賦課(二回)              
+殊更過少に
+政府に提出する
 1.について。旧所得税法における罰則規定である。この規定がダブル・スタンダードであることについてはすでに述べた(前回・参照)。
 2.について。旧法の「詐偽」と改正法の「偽り」を同等扱いしている。たしかに、当時の国会における議事録によれば、「詐偽」と「偽り」とは同じ意味である旨の政府委員の答弁がなされているが、はたして本当に差異はないのか。
 3.について。賦課についてはすでに述べたように、国税通則法によって申告納税方式によるものとされている所得税にあっては、賦課などありえないことである。
 4.について。「ことさら判決」の所以(ゆえん)となった言辞である。逋脱犯には該当しない単純過少申告に、故意、つまり、所得を隠蔽し、課税を回避する意思さえあれば、逋脱犯が成立するとしたナントモ乱暴なものだ。「偽り(詐偽)その他不正の行為」という犯罪構成要件の中に全く異質の概念である「故意」を持ち込んでいる訳で、現代の刑事法の基本的考え方を無視している。これは又、犯罪構成要件を勝手に変更することを意味しており、勝手な変更など裁判官のなしうるところではない。「査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑦」で述べたところである。
 5.について。「所得税確定申告書を政府に提出する」などと判示しているが、同申告書の提出先は所轄税務署長であり(国税通則法第21条)、政府ではない。国税通則法の規定に明らかに反している。

 判例4.は、以上のようにオソマツ極まる判決である。この判決は、基本判例とされている判例1.とあいまって、昭和46(1971)年以来、実に40年以上にわたって、ほとんど全ての脱税事件に適用されてきた。
 「脱税は犯罪ではなかった」にも拘らず、犯罪として断罪されてきた背景には、判例1.と判例4.のようなデタラメな判例が存在していたのである。これらデタラメな判例に、租税法の権威として君臨していた東大法学部教授・金子宏氏が「お墨つき」を与えていたのである。筆者が、金子宏氏を冤罪捏造の黒幕であると指弾する所以(ゆえん)である。

(この項つづく)

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ここで一句。

 

”議員にも昔は偉い人がいた” -大阪、佐伯弘史

 

(毎日新聞、平成28年3月7日付、仲畑流万能川柳より)

(偉い人?偉そうな人の間違いでは?「政治は悪魔の仕事である」(マックス・ウェーバー)ことを忘れてはいけない。)

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