マルサ(査察)は、今-⑬-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***12.証拠の捏造

 査察官との話し合いを終えホテルに戻った私は、改めて嫌疑者に対して、査察が提示し直した5年分の修正申告の内容を説明した。松井洋主査から手渡された15枚の明細書、これをベースにして査察が何を考えていたのか、何がどのように変ったのか説明した。



「これまであなたが私に話して下さった通りでした。“簿外預金”については、脱税に直結するような簿外預金、つまり、“タマリ”が入っている預金ではないことが、 “簿外預金”の明細表から判明します。査察がいまだに簿外と言い張っているのは、単に公表(税務申告書に添付した決算書のうちの貸借対照表)に載っていないという理由からで、全くナンセンスです。

 あなたはこれまで年に一回、売上、仕入、経費などの集計表を××会計事務所に持ち込んで、全てを会計事務所まかせにしていました。××会計事務所としては年度の収支計算を中心に記帳し、代表者勘定を利用することで、現金預金の残高については、キッチリと確認していなかったのでしょう。ただそれだけのことです。代表者勘定を含めて考えると、現金預金の残高は、「公表」とピッタリ合うはずです。中小零細企業の記帳、決算、申告を依頼された場合、簡便法として多くの会計事務所がやっていることです。正規の簿記とは言えないのですが、決して違法なものではありません。

 査察もこのことは百も承知の上です。役員賞与認定が消えて、査察がこれまで支払うように言っていた1億3,000万円が、半分の6,000万円ほどになったのが何よりの証拠です。本当に“簿外預金”であるならば、役員賞与認定が、代表者貸付金認定に変わることなどありえません。

 この段階で、脱税という犯罪の中核をなしている要件、つまり「偽りその他不正の行為」(法人税法第159条)が消えています。1億3,000万円が6,000万円強と半分になっただけでなく、犯罪の構成要件がなくなっていますので、告発はしようとしてもできません。

 査察官が修正申告に応じたら告発はとりやめると私達の前で何回も言っていたのですが、このことは、受け取った文書によっても裏付けられていますので、告発については全く心配はいりません。」

 納める税金が半分になった、告発の見送りが確実になった、-このことだけで嫌疑者は急にソワソワしはじめた。一刻も早く修正申告をして、うっとうしい査察調査を終えてしまいたいようであった。

「あなたがこれで全て終わりにしようというのであればそれで結構です。告発の見送りという大きな目的が達成されたのですから、あとは納める税金の金額だけだからです。
 ただ、今日の査察の説明には重大な偽りがあります。この偽りは、多分に意図的なもので捏造です。
 あなたもお気づきだと思いますが、後から査察が渋々ながら出してきた

“簿外預金”の明細表

の中で、1億2,000万円だけ細工がしてあります。ナント、5年前の××金融機関の預金1億2,000万円がスッポリ抜けています。こんな小細工をして、

『簿外預金の5期増加額は1億6,000万円』

などと言っているのです。これは、全ての金融機関から取り寄せていただいた5年間の預金の残高証明書から明らかです。
 つまり、5年間の本当の預金の増加額は、1億6,000万円ではなく、4,000万円(=1億6,000万円-1億2,000万円)であり、査察は1億2,000万円も水増ししているのです。課税根拠の捏造、つまり証拠の捏造です。
 このようなインチキをしていながら、5年間の増加額は1億6,000万円だが、4,000万円割り引いた1億2,000万円を5年間の増加額ということにしてあげる、などと恩着せがましいことを言っていますがデタラメです。5年間で4,000万円しか増加していないんですから。
 明細表にもっともらしく計算されている
+売上除外額(5年分)
+架空仕入高(5年分)
+架空給与手当(5年分)
は全て、この偽りの1億2,000万円に合わせるようにしてテキトウに推計したもので、まさに詐欺師の手口そのものです。
 このことは、個別の検討からも明らかになります。売上除外額は、売上原価率検討表の売上原価率(推計)をもとに計算したものです。あなたの会社の業種から言えば、ここで査察が示している売上原価率に比べて8~10%の差異があります。つまり、推計された売上原価率が実態と大きくかけ離れているのです。
 また、架空仕入にせよ、架空給与手当にせよ、極めていいかげんな計算です。とくに架空給与手当の計算がヒドイ。
 架空と認定された給与を差し引いた場合、そのような人員では仕事そのものが回転しないのです。大半の給与が時間給ですから単純な計算で査察のウソが明らかになります。
 こうして考えると、私が事前に話していたように(「マルサ(査察)は、今-⑪-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から」参照)、

3年間で4,000万円の申告モレ、
納税額は最大でも2,000万円弱

というのが妥当なところです。
 ただ、依頼者はあなたです。あと更に4,000万円だけ納税額を切り下げることができると思われるのですが、どうするかはあなたの判断にまかせます。」

 以上の説明をしたところ、

「一晩考えさせて欲しい」

という申し出があり、翌日の朝8時半にホテルで朝食を摂りながら話をすることになった。査察官とは、翌日の午前中に何らかの返答をするように約束していたからである。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“入れ物の方が高そう化粧品” -富田林、児玉暢夫

 

(毎日新聞、平成24年9月27日付、仲畑流万能川柳より)

(高そう、ではなく高い。薬九層倍の比ではない。)

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