大阪国税局の不法行為

 平成22年分の確定申告の受け付けが開始された直後、新聞各紙は一斉に、ある著名人の申告漏れを報じた。この著名人、京都仏教界の重鎮であり、気骨のある文化人としても知られている有馬頼底氏だ。“揮毫料に課税、相国寺派有馬管長-2億円申告漏れ、「個人収入」と指摘“(平成23年2月17日付、毎日新聞)
“金閣・銀閣住職申告漏れ-有馬管長3年で2億円、1億円追徴“(平成23年2月17日付、朝日新聞) 毎日新聞、朝日新聞だけでなく、その他の新聞も同時に同様の事実を報道していることから、大阪国税局がリーク(内部機密情報の漏洩)したものと思われる。このリーク、「有馬氏は今月上旬、朝日新聞などの取材に応じた」(朝日記事)とされているので、2月初旬以前になされ、確定申告の受け付けが始まるまでは報道しないように国税局からクギを差されていたもののようだ。申告時期に合わせたいつもながらの国税当局のPR、いわば、マスコミを利用した見せしめのためのPR報道である。

 この報道には2つの問題点がある。
 一つは、新聞各社が大阪国税局職員の守秘義務違反の違法行為に積極的に加担していることだ。
 税務職員は国家公務員であり、秘密を守る義務が課せられている。これに違反して秘密を漏らした公務員には、次のように懲役刑まで用意されている厳しいものだ。

「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはいけない。その職を退いた後といえども同様とする。」(国家公務員法第100条第一項)
「左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処す。

十二 第百条第一項又は第二項の規定に違反して秘密を漏らした者」(同法第109条)

 かつて、毎日新聞の西山太吉記者が、外務省の秘密公電をスクープしたことに対して、情報を提供した外務省の女性職員と共に秘密漏洩と「そそのかし」の罪に問われて逮捕され、刑事法廷に引きずりだされたことがあった。西山氏が女性職員と“情を通じて“国家機密を入手したとして、ことさらセンセーショナルに取り扱われた事件である。
 たしかに、このたびの大阪国税局の職員(と思われる人物)が漏らした機密情報は、税務調査に関する個人情報であり、国家機密でもなければ、男女関係を利用して、つまり“情を通じて”やりとりされたものでもない。
 しかし、国家公務員法第100条は、単に

「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはいけない」

と規定するのみであり、情報がいかなる種類の情報であるかを特定するものでもなければ、ましてや“情を通じて”など、同法111条の「そそのかし」の罪に関連するものであって、同法100条とは全く関係のないことだ。
 税務調査は、税務職員が各税法に定める質問検査権(「脱税摘発の現場から-1」参照)にもとづいて行なう公務である。その結果と処分の内容は「職務上知ることのできた秘密」そのものだ。税務職員は当然のことながら、このことを知悉しているはずであるし、漏洩情報を受け取った新聞各社の記者も同様だ。情報漏洩の被害者である有馬氏の社会的信用が、不当に毀損されたことを考えれば、毎日新聞の西山記者のケースに比して、はるかに悪質であると言っても過言ではない。

 問題点の第二は、報道された内容の追徴課税が果して適法であったかどうかである。
 まず、国税当局の認定は、-

「有馬氏は京都や神戸などの美術品や茶道具の販売業者から頼まれ、「天翔来福寿」などの書を多数の掛け軸や茶道具に書いた。1点あたり3万~5万円程度、計約2億円を受領していたが、税務申告していなかった」(朝日新聞記事

ので、受領した2億円を個人として受け取ったものとされた、というものだ。

 もともと、宗教法人の場合、宗教活動で得た収入は原則非課税だ。有馬氏の場合も、宗教法人の収入として計上してさえいれば問題になることなどないものである。
 ただ、有馬氏が法人の収入に計上することなく、簿外処理をしていたことからあらぬ疑いをかけられたようであるが、そもそもこのような揮毫料に課税することが正しいかどうかが問題だ。
 高僧、あるいは名僧とされる人が揮毫する場合、必ず肩書が付されるはずである。有馬氏の場合は、「臨済宗相国寺派管長」である。更に、書の内容は仏の教えに関連するものだ。揮毫そのものが法人としての宗教活動であり、有馬氏個人の活動ではない。有馬氏は記者の質問に対して、ご志納(志納金、いわゆるお布施のこと)として受け取ったと答えている。
 しかも、収受した金銭の全ては宗教法人にゆかりの深い古文化財の購入に充当され、相国寺境内にある承天閣美術館に展示されているという。収受された2億円が個人的な費消にまわされたものでもなく、個人所有の財産となっているわけでもない。
 以上の事実を前提とすれば、有馬氏が収受した2億円は宗教法人としての収入とするのが自然であり、個人の所得(山根注、おそらくは事業所得)とするには無理がある。宗教法人としての収入であるとすれば、例外的に課税対象となる33種類の収益事業に該当しない限り、課税されることはなく非課税だ。(*注)
 とすれば、仮に2億円が簿外処理されていたとしても、つまり、宗教法人の収入として計上がなされていなくても、課税対象になることはない。すでに修正申告がなされているのであれば、税務当局は職権で減額更正すべきであるし、仮に1億円が納付されているのであれば、還付加算金を付して、有馬氏に謝罪した上で還付すべきである。
 尚、宗教法人の会計処理の上では、国税当局から指摘されたことを踏まえて、簿外で購入されていた古文化財を改めて宗教法人の元帳に記帳し、備品台帳に計上すれば済むだけの話だ。元帳仕訳としては、

(借方)備品 2億円    (貸方)過年度非収益収入(志納金) 2億円

とするだけのことである。もともと非課税収入であるから、申告漏れでも何でもなく、とりたてて騒ぎ立てることではないのである。

 この有馬氏のケースにとどまらず、最近、国税当局の違法な税務調査と理不尽な追徴処分(「脱税摘発の現場から-3」参照)が横行している。検察当局は、先般の証拠改竄(「何を今さら」参照)が発覚してから、違法なリークを自粛して、おとなしくしているようであるが、国税当局はいまだ恐いもの知らず、傍若無人の振舞いがおさまらないようだ。困ったものである。

***(注)
(納税義務者)

「内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を行う場合……に限る。」(法人税法第4条第1項)

(公益法人等)

(収益事業の範囲)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“怒ってる妻は敬語でメール打つ” -さいたま、火星落花生

(毎日新聞、平成23年2月20日付、仲畑流万能川柳より)

(「私(わたくし)が悪(わる)うございました!」「本当に申し訳ございませんでした!」-会話では、語尾のトーンがアップする。クワバラ、クワバラ。)

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