税務署なんか恐くない!-11

***11.税務調査の立会い-会計工学の活用

 これまで税務調査の立会いにおける税理士の役割について論じてきた。要約すれば次の通りである。

+税務当局の事実認定と法的判断が正しいかどうかチェックすること、

+事実認定の中でもとくに重加認定が重要なものであること、

+重加認定が予定されているときには、仮想・隠ぺいの具体的な事実の摘示を税務当局に求め、明確な摘示がなされない場合にはねばり強く交渉して重加認定を外してもらうこと。

 税務における事実認定は全てお金にからむことだ。あるいは、会計情報に関することであると言い換えてもよい。以下、本稿を締めるにあたって、重加認定を含む事実認定について、会計情報、即ち会計工学の立場から考えることとする。

 この会計情報は、特殊な情報であって一般の情報にはない特徴をもっている。

 その特徴とは何か。情報自体、合理的な性質を持っていることだ。このために会計情報に何らかの操作を加えて変形させたとしても、必ず復元し、元の姿が立ち現われる。操作が合理的なものでない限り、いくら加工をし細工をしても無駄である。真実の姿を覆い隠すことはできないのである。

 このような会計情報の合理性に着目して組み立てられるのが会計工学(Accounting Engineering)である。情報工学の中でも最も科学的なものだ。会計工学-現時点ではいまだ構想の段階であって、システムとしては完成していない。より正確に言えば、私の頭の中だけでシステムは完成されているものの、誰でも容易に活用できるシステム・ソフトとしては未完成であるということだ。このシステム・ソフトが完成した暁(あかつき)には、記帳システムが一変し、全世界的に用いられている複式簿記の会計にとって換るであろう。
 現在の複式簿記は会計工学の簡易版、あるいはアナログ版といったところであり、便利なものだ。使い方さえ誤らなければ会計情報を正しく理解することができるからである。しかも、簡単かつ短期間に修得できる勝れものだ。世界的に広まった所以(ゆえん)である。

 税務調査の立会いに際しては、今のところ簿記の知識、中でもキャッシュ・フロー(お金の流れ)とキャッシュ・バランス(お金の残高)を明らかにする資金会計の知識さえあれば十分だ。
 たしかに、債務の確定とか、所得、つまり益金と損金を算定する際の基準とされる「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法第22条第4項)などは、税務上極めて大切なものである。
 しかし、こと税務職員のインチキを見抜くことに関して言えば、これらはさほど役に立つものではない。それらには、一定の「判断」が入り込む余地があり、税務職員の間違いをチェックする決め手にはなりにくいからだ。
 この点、キャッシュに関しては「判断」の入り込む余地が全くない。キャッシュが動いたか動かなかったか、あるいはキャッシュがあったかなかったか、これらは厳然たる事実であり、曖昧なところは一切ない。
 つまり、キャッシュの観点から収支計算を見つめなおすことによって、真実の姿を浮かび上がらせるのである。浮かび上がってきた真実の姿と、税務職員が提示してきた問題点とを対比させれば、一目瞭然、間違いがたちどころに判明するわけだ。査察事案における6億円の水増しが明らかになったのは、まさにキャッシュの動きと残高を忠実に検証した結果であった。あるいは、一定の条件付きながら認められている推計課税(法人税法第131条、所得税法第156条)についても、安易な推計を排除するのはキャッシュのフロー(入と出)とバランス(残)のチェックである。ちなみに、「ホリエモンの錬金術」において堀江貴文氏のインチキを明らかにすることができたのは、キャッシュの動きを正確に追跡した結果であった。また、粉飾決算(偽って利益を過大に見せかけた財務書類)を見破るのも、キャッシュの動きが重要な鍵となることが多い。

 まさに、会計工学の基本公式、

「 IN (入) - OUT (出) = BALANCE (残) 」

の出番であり、その威力は絶大である。

(この項おわり)

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 ここで一句。

“手料理を料亭の味と褒めてみる” -別府、湯煙美人

 

(毎日新聞、平成22年12月19日付、仲畑流万能川柳より)

(「川崎」の おかみが剥(む)いて くれた芋。(「料亭「川崎」のおかみ」参照))

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