100年に1度のチャンス -25

 これまで述べてきましたように、トヨタ自動車は再び収益力が回復しない限り、12兆円にも達する公簿上の純資産(平成20年3月末現在)は絵に画いた餅のままで終ることになります。現在のトヨタを人に例えれば、周りの迷惑を顧(かえり)みることなく、自分さえよければとばかりにガムシャラに働き、気がついてみれば身体がボロボロになっていた患者、あるいはより厳しい見方をするならば、道楽の限りを尽くしてきた挙句、心筋梗塞の発作を起した患者、といったところでしょうか。

 話を本筋に戻すことにいたします。日本だけでなく世界各国において、経済状況を判断する最も重要な指標とされているGDP(国民総生産)に対する疑念、つまり、

『経済成長神話は幻ではないか』

という疑問とトヨタ自動車の実態との関連についてです。

 日本のGDPは概ね500兆円。トヨタ自動車の売上高は26兆円ですが、GDPと同じ付加価値ベースにしますと、10兆円前後、下請関連を含めますと15兆円(推計)となります。これは、日本のGDP500兆円の3%に相当します。一つの企業グループとしては日本で最大のものでしょう。
 このトヨタが生み出した15兆円の付加価値とされるものが、バブルにまみれたものであったとしたらどうでしょうか。仮にバブル部分が20%あるとしますと、15兆円のうち、3兆円(15兆円×0.2)は本当の付加価値とはいえないことになります。笠信太郎氏のいう、“花見酒の経済”における見せかけの利益ということです(“100年に1度のチャンス-号外4”)。見せかけの利益、つまりバブルの原因は、借入金をテコ(レバレッジ)にして投機に走った「レバレッジ経営」にあると考えていますが、その詳細は別稿で論ずることにします。

 これはトヨタのような自動車産業だけではありません。ソフトバンクや楽天あるいは光通信のようなIT分野にいたってはバブルの度合が更に大きいかもしれません。
 IT業界については、インド経済急成長のシンボルであったサティヤム・コンピュータ・サービス社の巨額粉飾決算事件が最近明らかになり、インドの国民的英雄のように祭り上げられていた創業者のラマリンガ・ラジュ氏が逮捕されています(平成21年1月10日)。日本においても、直ちに粉飾とまでは断定できないまでも、IT業界では決算書をとりつくろうのにアノ手コノ手が駆使されています。4年前に私は、ライブドアのインチキ手口を明らかにしたのですが、それと同工異曲の怪しげな小細工がかなり多くの上場会社において行われているようです。上場企業としては相応(ふさわ)しくないゾンビ企業が跋扈(ばっこ)しているということです。

 このように考えてきますと、GDPは各事業体が生み出す付加価値を集計したものですから、500兆円とされているGDPそのものが怪しくなってきます。私は500兆円のうち、最低でも10%、多ければ20%はバブルではないかと考えています。
 つまり、昨今、100年に1度の経済危機だとか未曾有(みぞう。みぞゆう、ではありません)の大不況だとか騒がれているのですが、これは、世界的な経済バブルがハジけて、もとの正常な状態に戻ろうとしているだけのことと考えれば、かえって好ましいプロセスであるということになります。先行きが真っ暗だとかいって悲観するのではなく、まともな経済状態に復帰するプロセスとして、むしろ喜ぶべきことなのです。
 ミクロ(各事業体)の実態を十分に分析することなく、マクロであるGDPの動きに一喜一憂しているのが日本における官民あげての空騒ぎの現状です。GDPの成長率がゼロになる(政府の公式見解)といってみたり、8%から10%のマイナス成長に陥る(民間のシンクタンク等)といってみたり、私からすればどちらもナンセンスというほかありません。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“知っているけれども分かってはいない” -北九州、ほっしー。

 

(毎日新聞、平成21年3月26日付、仲畑流万能川柳より)

(経済評論家、アナリスト、経済学者。知識はあってもリテラシー(理解する力)に欠ける人達。)

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