リーマン・ブラザーズの破綻

 三年半前、ライブドアがインチキ会社であることに気がつき、私のブログで指摘しました(“ホリエモンの錬金術”)。連載を始めてからのことですが、この怪しげな会社が拠点としていた六本木ヒルズに何回か足を運んだことがあります。私はヤジ馬根性が旺盛なものですから、一世を風靡している異形の詐欺師が、どんなところで仕事をしているのか、自分の眼で確かめたかったからです。1Fの案内板に記された、入居している会社名を見て驚きましたね。ライブドアだけでなく、それに輪をかけて怪しげな会社のオン・パレードだったのです。その中に、先般破綻したリーマン・ブラザーズも入っていました。

 それ以来、リーマン・ブラザーズはまともな会社ではないと考えてきましたので、このたびの破綻劇も私にとっては格別な思いはなく、

「さもありなん」

といった程度のものでした。いわば、多くの人々に多大な迷惑をかけて、インチキとばくで荒稼ぎをした挙句、自滅しただけのことだからです。従って、リーマン・ブラザーズについては、今更書くべきことはありません。

 ただ、このライブドアに輪をかけたインチキ会社については、3年余り前にある程度の調査をした上で文章にまとめたことがありました。“ホリエモンの錬金術”は、当初5回位の連載にして軽く終える予定でしたが、第一回目をブログにアップしたところ、予想外の反響がありました。私が粉飾決算という言葉を使ったためでしょうか、

「いいかげんなことを言うな」

とか、

「そこまで言うならキチンとした根拠を示せ」

とか、なんとも激しい悪口雑言の嵐に見舞われ、正直、身の危険さえ覚えた程でした。それまでブログに私の写真を載せていたのですが、急遽外したのも、ホリエモンを取り巻く人達の中に一種の狂気を感じたからです。このために、予定稿をボツにした上で、専門的なことも加えて全面的に書き換えることにしたのです。
 このときボツにした原稿は4回分、その中にリーマン・ブラザーズに関して記したものがありますので、今回公表することにいたします。執筆時点は、平成17年3月頃です。

ホリエモンの錬金術 (ボツ原稿)

 私は、現在ホリエモンの仕掛けているフジ・サンケイグループとのドタバタ劇がどのような結末になろうとも、早晩、ライブドアというインチキ会社は消滅すると考えています。
日本は世界でも類を見ない健全な社会で、イカサマの実体が指摘され、それが検証された場合、長く続くことはないでしょう。
 そこで、ギャンブル・ファンドであるライブドアが仮に解散するとしたらどうなるのか、試算してみることにします。一般投資家の側からすれば、被害総額の試算です。
 この試算にあたっては、リーマン・ブラザーズ(以下、リーマン)からの800億円のCB、あるいは既に転換されてリーマンの所有になっている株式は外します。
 リーマンは、一般投資家と違って、今度の買収劇がどうなろうと、またライブドアがどうなろうと、決して損をすることはないからです。
 損をしないどころではありません。ライブドアの一般株主の利益に反するような条件が付いた800億円のCBを受け取り、同時に、ホリエモンの持株の一部を空売り用に借り受け、しかも既に空売りあるいは実売りを実行に移しているというのですから、既にしっかりと荒稼ぎをしているはずです。
 リーマンは、ライブドアをダシに使って仕組んだマネー・ゲームによって、短期間のうちに、少なくとも200億円、うまくいけば2,000億円以上の荒稼ぎのできるシナリオを描いているのではないでしょうか。
 この場合の犠牲者は、ライブドアの一般株主であり、ニッポン放送あるいはフジテレビです。
 ライブドアとリーマンの契約内容は、一部公開されています。その他にリーマンは、ホリエモンの持株の全てと、800億円を提供して購入させたニッポン放送の株式の全てを、担保に取っているものと考えられます(私がリーマンならば、リスク回避の為に当然このようにするでしょう)。このようにしておけば、ホリエモンが夜逃げをしようが、ライブドアが潰れようが、リーマンにとって痛くも痒くもないのです。
 リーマンはその道のプロですから、有報の精査だけでなく、ライブドアの内部資料をも提供させて十分な調査をしているはずです。会計のプロであれば、さほどの時間をかけなくとも、ライブドアの財務諸表の怪しげな内実が判ったことでしょう。
 つまり、リーマンは、ライブドアの決算書の怪しげな内容を百も承知の上で、800億円のCBを引き受けたのでしょう。タチが悪いとしか言いようがありませんね。
 リーマンのシナリオの中には、ライブドアが潰れてしまうことは予測として入っているでしょうし、更に一歩進んで、ライブドアが潰れてしまった方が、リーマンの稼ぎが大きくなるようなシナリオがあるかもしれません。
 リーマンは、かなり前から日本で商売してきた会社です。それなりに評価されてきたようですが、今回のことはいただけません。
 ライブドアというインチキ会社を手先に使い、怪しげなCBを用いて、一般投資家とフジ・サンケイグループとを食いものにしようとしている、と批判されても仕方ないでしょう。
 リーマンは、目先の欲に目がくらんで、日本における信用を大きく落としたのではないでしょうか。
 先般、リーマンのアドバイザーであった“ミスター円”こと榊原英資さんが、アドバイザーを辞任されたそうです。
 言論人としての中立性を保つ、というのが表向きの理由のようですが、榊原さんもリーマンの思惑に気付いてびっくりされたのでしょう。
 渇しても盗泉の水は飲まず、“ミスター円”氏の見識がうかがえます。

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 ここで一句。

“品格に上品 下品 偽装品” -西海、うかい。

(毎日新聞、平成20年10月6日号より)

(偽装品にも様々あれど、ライオンヘアにチルドレン。)

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