ライブドア監査人の逮捕 8

 次に、ホリエモンこと堀江貴文氏について一言。これは意見というより、私の憶測です。



 堀江氏は、2005年7月にライブドア株を大量に売却し、142億円余りの資金を手に入れています。「ライブドア監査人の逮捕-6」の(8)で記したところです。

 当時、この株式売却については様々な憶測が流れていました。選挙資金を用意するためであるとか、かねてから考えていた宇宙ビジネスに乗り出すためであるとか、賑(にぎ)やかなことでした。しかし、それらは全て堀江氏本人が意図的に流したものであったのではないか。真のネライを隠すために、もっともらしいことを言い触らしていたのではないかと私は見ています。つまり、カムフラージュということです。

 堀江氏の真のネライとは何か。それは、まとまったキャッシュを安全かつ確実に手に入れることであったと考えています。本当は、もっとたくさんの持株を処分したかったのでしょうが、そうすると真のネライを察知されるおそれがあるため、ギリギリのところで抑えたといったところでしょうか。
 会社の粉飾疑惑については、私が「ホリエモンの錬金術」で指摘しているだけでなく、身内と思ってタカをくくっていたに違いない、ライブドアの監査人からも厳しく指摘されていました。それに加えて、インチキ上場のカラクリが明らかにされるに及んで、ほどなくライブドアが崩れていくのを予感したとしても不思議ではありません。ことに、堀江氏自らが書いた“一枚の法定書類”(「ホリエモンの錬金術 -12」)が炙(あぶ)り出され、著書などでもっともらしく言いつくろってきた、上場時の資金のいきさつが全くの偽りであったことが暴露され、インチキ上場の手口が明らかにされるに及んで、会社崩壊の危険性を察知したのではないでしょうか。
 万一、ライブドアが上場廃止にでもなれば、持株は売るに売れず、仮に売れたとしても手にできるキャッシュは知れています。堀江氏は、とりあえずまとまったキャッシュを確保した上で、その一部を使ってイチかバチかのバクチに打って出たのではないでしょうか。そのバクチこそ、衆議院選挙に打って出ることではなかったか、と思われます。
 堀江氏にとって当選するかしないかはどうでもいいことであった。万一、当選でもすれば万々歳。国家権力の一角に入り込む訳で、不逮捕特権という願ってもないものが手に入るのですから。ともかく、政権政党である自民党の後ろ盾が欲しかったのではないか。選挙に当選するための後ろ盾ではなく、ライブドアに捜査の手が伸びるなど、万一の時に備えて、時の権力による庇護を期待したのではないでしょうか。つまり、政権政党にすり寄ったのは、ライブドアの危機を回避するための、一種の保険のようなものであったということです。実際には保険の役割を果たさず、ライブドアが摘発され、本人も逮捕された訳ですが、堀江氏が考え抜いた、いわば堀江流のリスク・マネジメントだったのでしょう。
 堀江貴文氏は、自民党に話を持っていく前に、民主党にも話を持っていっていますが、これも勿論カムフラージュでしょう。野党である民主党では危険を担保する保険の役割を果さないどころか、逆に、政権政党のテキと見なされて、かえって会社がネライ打ちにされかねないからです。

 堀江氏が、選挙のためにいくらお金を使ったのかは分かりません。自民党、あるいは自民党の一部の議員にウラ金が渡っているのかどうか、あるいは渡っているとしたら誰にいくら渡っているのかも分かりません。全て藪の中、神のみぞ知ると言いたいところですが、さにあらず。堀江氏が手にした142億円のキャッシュの流れを追っていけば簡単に分かることです。
 ライブドア事件の捜査において、検察当局はこの142億円の行方について当然調べており、詳しく知っているはずです。しかし、公表されてはいません。現在の日本の検察当局の、多分に恣意的かつ政治的な思惑によって、ウヤムヤにされたのでしょうか。
 二年前、民主党の永田寿康議員が3,000万円を送金したとするニセメールを振りかざして、自民党首脳の疑惑の追及をしたことがありました。疑惑の追及は不発に終り、勇み足をした永田氏は議員辞職に追い込まれ、民主党としても少なからぬダメージを受けました。当然の結果といえるでしょうし、実際のカネの出入りを確認することなく、真偽のほどが定かではない一通のメールだけで、相手の政治生命を絶ちかねない個人攻撃をするなど、オソマツもいいところです。ただ、このメールはガセネタであったとしても、実際のところあるいは一桁多いお金が流れた可能性があるかもしれません。衆院選の落選後に、武部幹事長の肝入りで自民党の財政特別顧問に就任するとか、誰の紹介かは分かりませんが日本経団連に加入するなど、見方によればなんともキナ臭い動きをしていますので、邪推を承知の上でつい疑ってしまうのです。

 以上をまとめてみますと、

“堀江貴文氏が、4,000万株のライブドア株を売却して142億円余りを手にしたのは、会社崩壊を予見して早めに株式の現金化を図ったものである。選挙への出馬は、真の意図をカムフラージュするためであっただけでなく、政権政党に深いつながりを持つことで、万一の会社危機に対する保険とした。現在でも堀江氏の手許には100億円前後のキャッシュが確保されている。仮に実刑を食らって一時的に塀(へい)の中に落ちるとしても、詐話師としては大成功である。”

 これが堀江貴文氏の大量の株式売却にからむ一連の行動とその結果についての私の憶測です。

(この項おわり)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“小泉氏 啓蟄(けいちつ)のよに 動き出し” -枚方、ただの人。

 

(毎日新聞、平成20年4月7日号より)

(ゴソゴソと。“ホリエモン 大金かかえて 冬籠り” “啓蟄は いつになるかと ホリエモン”)

Loading