ホリエモンの弁解術 -9

 今から8年ほど前のことです。私は10ヶ月程の逮捕・勾留から解放されて二年余りが過ぎ、心身ともにようやく元の状態に復帰したところであり、3人の弁護士と共に、身にふりかかってきた冤罪をなんとしても雪(そそ)ごうとして必死になっていました。

 世はITバブルで湧きかえり、IT長者と称するにわか成金が続出していました。私が住んでいる山陰の小都市、松江も例外ではありませんでした。

 IT企業でもなんでもない、単なるケータイ電話の販売会社がIT関連と称して上場し、話題になりました。この会社、ライブドアと同様に会社の実体がほとんどないような存在でしたが、地元では大きな影響力を持っている、ある経済人が、ベンチャー企業の雄としてこの会社を推奨したために、絵に画いたようなバブルが現出したのです。

その人自らが株主になったり、あちこちの会合の折に有望な企業として絶賛したものですから、たまりません。額面5万円の株式があっという間にナント3,700万円にまで急騰。品薄状態の中を値が飛んだのです。もともと、これといった会社の中味がありませんので、暴落するのもあっという間のことでした。この間、利益を得た人もいるのですが、多くの人が多額の損失をこうむったのです。あちこちから怨み節が聞こえてきましたが、その人物の手前、表立った声にはなりませんでした。
 オピニオン・リーダーと目されていた人物が太鼓判を押したのですから、多くの人がそれを信用して買いに走った訳です。その人も私腹を肥やすためにしたことではないでしょうが、結果的に多くの被害者が発生したのは事実です。世情に疎いサラリーマン経営者の無知による勇み足とはいえ、罪つくりなことをしたものです。

 ちょうどその頃、一人の自称為替ディーラーとの出会いがありました。あるグループには属しているものの、独立採算でやっている、一匹狼的な存在という触れ込みでした。仮にX氏といたします。
 いくつかの金融派生商品を紹介されたのですが、私が全く興味を示さないことを見てとったX氏は、今度は何やら秘密めいた資料をカバンから取り出して私に説明を始めました。
 真偽のほどは定かではありませんが、X氏によるとアメリカにおけるビジネスモデル特許をもったビジネスプランでした。英文で記されたビジネスプランで、日本における専用実施権を持っている、ついては顧客を紹介してくれないか、というものでした。新規事業に対する投資、あるいはエンジェル・ファンドのようなもので、その投資先を捜しているというのです。
 お金を出せ、というのではなく、逆に、事業資金に困っている会社に資金を提供しようというのですから、とりあえずX氏の話だけは聞いてみることにしました。
 それはまさに、いいことづくめのビジネスモデルでした。担保もいらなければ保証人もいらない、その上、過去の業績は余り問題とはしない、将来の見通しさえあればいいというのです。その将来の見通しについてのコンファーム(確認)はどうするのか、という私の質問に対しては、そのようなものは必要ない、所定のフォームによる業績見込みが整合性をもって作成されていればよいとの回答。つまり、もっともらしい事業計画さえあれば、その実現可能性は問わない、というのです。
 資金を提供する側は、当然のことながら大きなリスクを抱えることになります。物的な保証(担保)もなければ、人的な保証(連帯保証人)もない上に、事業計画もいいかげんなもので構わないというものだからです。このリスクに関しては、ファンドの方でしかるべき保険をかけるので大丈夫であるという説明がなされていました。X氏が口にしたのは、世界的に有名な保険グループでした。

 以上が、X氏の説明による、アメリカで考案されたビジネスモデル特許と称するものの大枠でした。X氏は、私に数十ページに及ぶ英文の説明書を手渡してくれましたので、念のために眼だけは通してみました。
 それはまさに、インチキを絵に画いたようなシロモノで、X氏とはその後二度と会うことはありませんでした。
+経営者の人物像を全く考慮しない、
+事業計画はもっともらしいものでOK、
+リスクヘッジのための保険の使い方に疑義がある、
 この3点だけでも、ウサン臭いことが明らかだったからです。そのころ横行していたアングロサクソン流のインチキ・モデルの典型といったところでしょうか。
 いっぱしの経済人を装っている、オピニオン・リーダーといい、X氏が持ってきた怪しげなビジネスモデルといい、あるいはまた、堀江貴文さんを首謀者とする、一連のいかがわしい詐欺的商法といい、もっともらしい似而非(えせ)ものが、このところ跋扈(ばっこ)しているようですね。ちなみに、週刊ダイヤモンドが、“新興市場に気をつけろ”-デタラメ資金調達インチキ情報開示疑惑の上場企業一挙公開-という標題を付して、株式市場におけるいかがわしい連中の特集をしています(同誌、2007年4月28日・5月5日号)。丹念な取材の跡がうかがえるタイムリーな労作です。Aクラスの資料として私の資料ファイルに入れることにしました。

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 ここで一句。

“シャラボワが妖精だとは思えない” -神奈川、荒川淳。

(毎日新聞、平成19年5月2日号より)

(ヨーロッパのユウレイは、足があって、ドスドスと歩くイメージ。妖精も筋肉質で、しっかりした存在感があるのかも。)

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