ホリエモンの弁解術 -8

 ライブドア(当時はオン・ザ・エッヂ)の上場に際してインチキ・スキーム(仕組み)を考え出し、実行に移した中心メンバーは、次の5人です。

  1. 堀江貴文(首謀者)
  2. 宮内亮治(税理士)
  3. 野口英昭(元証券マン)
  4. 中村長也(宮内氏の同級生)
  5. 小林元(公認会計士)

 1.の堀江貴文氏を首謀者とするのは、インチキ・スキームによる不正な利益の大半がこの人物に帰属するようになっているからです。上場してから後も堀江氏は、様々な詐欺的行為を繰り返して自らの資産の増大を図っています。このことを具体的な数字によって明らかにしたのが、「ホリエモンの錬金術」でした。

 2.から5.の4人は、堀江氏の手足となって働き、株式市場をあざむき、その結果、一般投資家を食いものにした連中です。それぞれ、少なからぬ不正な利益の分け前にあずかっているのですが、堀江氏の莫大な不正利益とは較べものになりません。

 私が「ホリエモンの錬金術」を執筆していた当時から疑問に思っていたことがあります。かつて堀江氏は本を出したり、あるいはメディアのインタビューに答える形で、自分の経営についての考えを、もっともらしく饒舌に語っていました。
 その中で、会社の利益とか、キャッシュフローについて喋っているのですが、どうも私達が一般に考えているのとは違ったことを考えているのではないか、自分勝手な思い込みを、さももっともらしく語っているのではないか、このような疑問を拭うことができませんでした。つまり、堀江さんが稼いだと考えている利益は、事業によって生ずる利益だけではなく、株主から集めた出資金をも含めているのではないか、ということでした。更には、上場会社といえども、堀江氏は完全な支配権を持つほどの大株主でしたから、会社の利益、イコール堀江氏個人の利益、あるいは、堀江氏個人の利益、イコール会社の利益と短絡的に考えていた節があります。しかも、その利益たるや、金になるのならば何でもOK、バレさえしなければ手段を問わないといった類(たぐい)のものであったのではないか。表街道を歩む真っ当な経営者にとっては信じがたいことでしょうが、そうとしか思えない痕跡が、分析の過程でいくつか見受けられたのです。

 世間に通用しない手前勝手な理屈を「私智」といいます。老子と孫子の思想を受けついだ韓非の言葉ですが、彼は私智について次のように喝破しています。

“好んでその私智を用いて、道理を棄つれば、則ち網羅(もうら。法の網のこと、刑法より広い)の爪角(そうかく)これを害せん。(現代語訳 - かってな知恵を気ままにふりまわして、ものの道理を無視したりしていると、法網の爪や角に害されるだろう。)“-韓非子、解老。読み下し文、現代語訳とも、金谷治氏による。

 私の疑念が確信に変ったのは、「ライブドア監査人の告白」で田中慎一会計士が記している、次のような件(くだり)に出会ったからです。

“そうした中で、私が最も危なっかしいと感じたのは、ニッポン放送の騒動で和解に至ったときに聞こえてきた、「儲かった」という熊谷氏の一言だった。
………
 確かに熊谷氏は、この案件に関してフジテレビとの交渉を取り仕切り、ニッポン放送株取得のための原資としてリーマン・ブラザーズから800億円を調達したうえ、最終的にはフジテレビから400億円の増資獲得のオマケまでライブドアにもたらした。
………
 しかし、よく考えてみれば、ニッポン放送株のフジテレビへの売却価額はライブドアグループが取得した価額を若干上回る程度であり、この取引による売却益はほとんどゼロ。一方の増資は、400億円の現金を受け取る見返りにライブドアがフジテレビに対して新株を発行する。言うまでもなく増資は資本取引であるため、この時点では利益など生じていない。それでも、熊谷氏の発想は「儲かった」となるのである。
………
 当たり前の話だが、本来は調達した元手を運用して利益を出したときはじめて「儲かった」となる。増資とは元手となるお金が入ってきたにすぎないのだが、自由に使えるお金が手元に1200億円もあるというだけで気持ちが大きくなってしまったのだろう。
 ただ、ライブドアでは、堀江氏、宮内氏を筆頭に「お金を引っぱってくる社員が優秀な社員」という風潮があったことは事実で、熊谷氏の錯覚もそんな風潮を反映していたのかもしれない。“
(同書、P.84~P.85)

 田中会計士がライブドア監査人の立場から、

“「お金を引っぱってくる社員が優秀な社員」という風潮があったことは事実”

だと明言していることは、重大な証言です。
 ただ、熊谷氏はライブドアのオーナーであった堀江氏にとっては一使用人にすぎませんので、熊谷氏を堀江氏に置き換えてみますと、熊谷氏の「儲かった」というのは決して錯覚ではないことが分かります。法外に吊り上げた価額で時価発行増資をしますと、堀江氏の持ち株の評価額が大幅にアップしますので、堀江氏個人としては確かに「儲かった」のです(“ホリエモンの錬金術-16”参照のこと)。
 田中会計士に錯覚と言わしめているものの、実は錯覚でもなんでもなく、堀江氏にとっては、確実に個人資産の増大となっている(つまり、儲かっている)ところに、ライブドア事件の核心があるようです。

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 ここで一句。

“六本木ヒルズ建て替えいつだろう” -蕨、あげあし鳥。

 

(毎日新聞、平成19年4月22日号より)

(二年前、もの珍しさもあって、所用も含めて何回か六本木ヒルズに足を運んだことがあります。一階にある入居企業ボードを見て驚きましたね。ライブドアだけでなく、怪しげな会社のオン・パレードでした。邪気がしみつくようで、それ以来、一度も行っていません。私は神々の国の首都、松江の原住民、今を盛りと咲き誇るナンジャモンジャの、淡雪のような花の香りがなじむようです。城山に三十本余りあるナンジャモンジャの中でも、椿谷(つばきだに)入口にある木が一番よく薫るようです。5月8日、松江の城山はナンジャモンジャのふくよかな香りにつつまれています。)

●ナンジャモンジャ(松江城にて)
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※画像:花図鑑(松江の野草樹木の花の名前)・サイクリング日記
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※画像:花図鑑(松江の野草樹木の花の名前)・サイクリング日記

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