ホリエモンの弁解術 -5

 堀江さんは、自ら関わったことについて弁解すべきところを弁明に終始し、自ら墓穴を掘っているようです。このような法廷戦術を勧めた弁護人の高井康行さんは、いわば墓穴掘りの介添人です。

 もっとも、この2人の思惑は別のところにあるのかもしれません。堀江さんが罪に問われているのは証券取引法違反ですから、そこで規定されている罰則は最大でも懲役5年。実際の判決は3年前後に落ち着くことを見越し、執行猶予でもつけば儲けもの、とでも考えていたのかもしれません。

つまり、全面否認をして完全無罪を勝ち取ると公言はしていても、その実、有罪判決は承知の上であったのかもしれません。自ら犯したことを悔い改め、騙し取った私財の全てを被害をこうむった多くの人に弁済する位なら、3年位の刑期など、どうということはないのでしょう。作家の安部譲二さんに言わせれば、“たかがションベン刑”といったところです。金で女の心まで買える、と言い放っていた人物ですから、ありそうなことです。
 たしかに、現実に2年6ヶ月の実刑判決が出たときはさすがにショックだったのでしょうが、判決から1ヶ月が経過した現在、自分の資産が守れるものなら、この位の刑期など軽いものだとほくそ笑み、あの手この手で資産の保全を図っているかもしれません。

 いずれにせよ、堀江さんが現在所有している莫大な資産は、ライブドアと一緒になって、多くの投資家から騙し取ったもので、堀江さんが正当な手段で得たものではありません。堀江さんが住んでいるマンションの高額な賃料、ジェット機、高級外車、あるいは気ままに豪遊している遊興費も全て、多くの投資家から騙し取ったお金でまかなわれています。更に言えば、高井康行弁護士に支払われたであろう高額の弁護料も、騙し取ったお金です。高井弁護士は、証券詐欺罪はないとテレビで放言していましたが、高額の弁護料が噂される私選弁護人として、何とも苦しい言い訳ですね。IT企業の実態がほとんどなかったことについては、先に述べたように、ライブドアの監査人であった田中慎一会計士も呆(あき)れている位で、それをあの手この手でゴマかしてはIT企業の雄であるかのような幻想を創り出し、決算書を偽って、一般大衆を欺いていた訳ですから、法律に証券詐欺罪がないからといって済む話ではありません。

 高井さんは検事上がりの弁護士、一般にヤメ検と言われている方ですから、あるいは、法の網をくぐってお金を騙し取ったとしても、処罰する法の規定さえなければ、正当なお金であると強弁できるのでしょうか。私が自ら経験したのは、20人以上の検事達が、国税当局と一体となり、組織として犯罪をデッチ上げたことでした(詳しくは、“冤罪を創る人々”を参照のこと)。このような信じ難い経験をしているだけに、今の日本の検察は、白を黒と平気で言うことが出来ると同時に、逆に、黒を白と平然と言ってのけることができる組織ではないか、このようなことまでつい憶測してしまうのです。冤罪であろうとおかまいなしに、国民を断罪することに浮き身をやつし、実際に冤罪の矢面に立たされた者の苦悩など、我関せずとして平然と無視できる職業集団、つまり、独善的で唯我独尊的な組織の中で長年暮らしていると感覚が麻痺し、一般にヤメ検と言われる存在が、独特の臭気を発するようになるのでしょうか。
 これまでかなりの数のヤメ検を知っていますが、一人の例外もなく、同じ臭いを漂わせている連中でした。そして何故か、金、金、金と、金が全ての人達でした。テレビのコメンテーターとして登場する何人かのヤメ検(弁護士だけでなく、大学教授などになっているのもいますが)を見ていますと、言わずもがなのトンチンカンな独善的なコメントが目立ちます。古典落語に登場する、知らないことはないと大見得を切り、迷答珍答を連発する、裏長屋の大家さんを連想してしまいます。偏頗(へんぱ)な知識と経験を頼りにして、有識者然として振舞っている姿に、哀れみを催すのは果して私だけでしょうか。

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 ここで一句。

“貧乏は不幸なんだという社会” -国分寺、玉川くらげ。

(毎日新聞、平成19年3月1日号より)

(私のまわりには金持ちで不幸な人が一杯います。反面、金はなくとも、ゆったりとした生活を送っている人も少なくありません。)

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