163 続・いじめの構図 -7

****その7)

国税局による一連の違法捜査には、冤罪の基本パターンが巧妙に仕組まれていた。それは、当事者を分断して、一方の当事者に利益誘導をし、偽りのシナリオを自供させること、つまり嘘の自白をさせることだ。

具体的に言えば、私のクライアントの税理士業務を行っていた税理士法人に対して、単なる名義貸しをしていたにすぎず、税理士業務を行っていなかった旨の事実に反する嘘の自白を執拗に迫ったのである。東京国税局の担当者は、税理士法人の松江事務所の責任者であったM税理士に向って、次のように脅したりすかしたりしたという。

「何で山根の肩を持つのか。山根のようなニセ税理士がいるから、あなたのような、難しい国家試験を通ってきた若い税理士が迷惑をこうむることになる。悪いのは山根の方で、あなたは山根に利用されただけのことではないか。名義貸しさえ認めれば、決して悪いようにはしない。このまま、山根と一緒になって抵抗するとあなたも山根と一蓮托生だ。このまま突っ張っていると、告発することになるかも知れない。当然逮捕もありうることだし、そうなったら苦労してあなたを育てたお母さんだけでなく、結婚したばかりの奥さんも悲しませることになるよ。悪いことは言わないから、素直に自白することだ。」

確かに、税理士法にはニセ税理士を罰する規定(二年以下の懲役)はあるものの、税理士の名義貸しを罰する規定はない。強引にニセ税理士の共犯に持っていくことはできるが、直接的に名義貸しを罰する条文は存在しないのである。たかだか、国税庁か税理士会による懲戒処分があるだけのことだ。
国税当局は、名義貸しについて直接的には刑事罰が定められていないことを巧みに利用して、告発したり、逮捕したりしないことを匂わせて、いわば利益誘導を図ったのである。

細野祐二公認会計士。畏友村上幸栄氏(株式会社キャッツ、元専務)から紹介を受けた友人である。昭和28年生まれの53歳。早稲田大学卒業後、会計士の世界に入り、以来監査一筋に生きてきた、監査のプロフェッショナルである。
この細野会計士、まさに絵に描いたように典型的な冤罪事件に巻き込まれてしまった。村上氏が専務をしていた、東証一部上場会社であった株式会社キャッツの粉飾決算事件の首謀者とされたのである。私は、村上・細野両氏から事件のいきさつを聴き、裁判関係資料に目を通した結果、まぎれもない冤罪事件であることを確信した。私自身が、広島国税局のマルサによる冤罪事件と、このたびの同局税理士監理官の策謀による冤罪未遂事件とに巻き込まれ、地獄の苦しみを味わった経験があるだけに、細野会計士の真摯(しんし)な訴えはストレートに私の心の中に入ったのである。
事件の経緯については、ジャーナリストの町田徹氏による記事、“粉飾決算で逮捕された公認会計士が怒りの激白、私をはめた東京地検特捜部「経済事件の作り方」”にまとめられている。(月刊現代、2007/2月号)。簡潔にして的確な内容の労作である。

デッチ上げられた犯罪のシナリオに沿って、関係者達が事実に反する嘘の自白を強いられ、いくつかの物的証拠も偽りのシナリオを補強する道具に使われた。私のケースと全く同じである。一年前の3月24日、東京地裁(一審)は、検察側のインチキ訴追をそのまま認め、細野会計士が、キャッツの粉飾を共謀、指導したとして、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を下した。不当判決である。
平気で事件をデッチ上げ、人倫に悖(もと)ると指弾されても仕方のない検察官、検察と馴れ合いになり、思考停止状態の裁判官、嘘の自白の矛盾と不自然な物的証拠の追及を十分にすることができなかった、無能な弁護人、まさに、現在の裁判制度を象徴する事件であり、判決であった。
現在第二審が進行中であるが、遅ればせながらも、第一審において偽りの証言をさせられた株式会社キャッツの大友裕隆元社長をはじめ、村上元専務等が、自らの非を悔いて第一審での証言を翻(ひるがえ)し、真実を話すに至っている。第二審の裁判官は、曇りのない目をもって事件を見つめ直し、いっときも早く無辜(むこ)の会計士の濡れ衣を晴らし、会計士業界にとってかけがえのない秀れた人材を、再び天職である本来の仕事に復帰させるべきだ。過(あやま)ちては即ち、改むるに憚(はば)かることなかれ(論語)、である。

公認会計士細野祐二事務所
http://www.kjps.net/user/khy/

 

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