Uチャート分析 -2

有価証券報告書は、たしかに企業情報の宝庫です。しかも、その情報の全てが偽りでないことが、証券取引法という法律によって担保されています。報告書に偽りの記載(虚偽記載)をいたしますと、その会社だけでなく関係した個人に対しても刑事罰を含むペナルティが課せられるのです。

現在3800社余りある上場会社の中には、敢えて偽りの情報を記載して公表する不心得な会社もありますが、ほとんどの会社は真面目に取り組んでいますので余り気にすることはありません。偽りの情報を公表しているインチキ会社は、100社にも満たない(私は50社前後だと見ています)でしょうし、遠からず株式市場から退場していく運命にあります。インチキを続けること、特に決算書のインチキ(粉飾決算)を続けていくことは実は至難の技なのです。監査人とグルであろうが、あるいは監査人を騙して出し抜いたものであろうが、数字のゴマカシはどこかでホコロビが顕われてくるものです。しかも、往々にしてインチキをしている会社自身、収拾がつかなくなってきます。何年も騙し通せるものではありません。複式簿記のシステムは実によくできているからです。
たとえば、何年分かの決算書を並べてみますと、数字の矛盾が自然に浮かび上がってきます。数字というものは思いのほかおしゃべりなもので、数字同士がケンカを始めるのです。分析する側としたら、数字のおしゃべりに耳をすまし、ケンカの原因を探っていけばいいのです。

従って、上場会社の決算書の分析の第一歩は、公表されている決算書を正しいものと見なして取り扱うことです。初めから疑ってかかる必要はありません。決算書に礼を尽して向き合い、丁重な対応さえすれば、数字自らが饒舌に真実を話し始めてくれるものです。
数字が企業の実態を話し始めるのですが、時として話を中断して口ごもることがあります。数字は正直なもので、ウソをつくことができません。数字に偽りが施されている場合、仲間の数字から手痛い攻撃を受け、内輪ゲンカが始まるという訳です。

全ての数字が正しいものとして分析を始めたところ、正しいはずの数字同士がケンカを始めた場合、つまり数字の間で矛盾が生じた場合、論理的な帰結は次の2つしかありません。つまり、
+2つのうちのいずれかが間違っているか、
+2つとも間違っているか、
の2つです。それぞれのケースについて、更に詳しく調べてみますと、ケンカ(矛盾)の原因に辿りつきます。決算書の注記を見たり、附属明細書などを見たり、あるいは、営業とか資本金に関する情報をのぞいたりして解明する訳です。更には、取引先とか同業他社の決算書を見ることもあるでしょう。

昨年から今年にかけて取り上げたライブドアの場合、なんとも賑やかなことでした。毎期のように、あっちでもこっちでも数字同士が大ゲンカをしているのです。まさにインチキのオンパレード、刑事事件として立件されたのは、その中のごく一部でしかありません。

私は改めて、自らの会社分析の仕方をふり返ってみました。なにも特別なことをしている訳ではありませんので、少し工夫をしたら、会計とか簿記に詳しくない人でも簡単に分かるようなシステムができるのではないかと思い至ったのです。簿記の知識がなくとも分かるような分析システム、このようなものができるならば公開されている企業情報の活用の幅が一段と広がることは間違いありません。もちろん、簿記の知識があるのに越したことはありませんが、その場合でも検定試験の3級程度で十分です。

私の会社分析の仕方は次の2つに集約されます。
一つ目は、シンプル(簡単)に、ということです。余計な枝葉を切り落として、コア(中核)の部分を浮き彫りにすることです。単純化とも言えるでしょう。
二つ目は、パターン化することです。感覚的にパターン認識すること、あるいは図表化することと言い換えてもいいでしょう。

私はこの2つのプロセスを自分の頭の中でやっていました。30年以上も企業会計の仕事に携り、数千社に及ぶ企業の数字を見てきた会計の職人ですから、あまり時間をかけなくとも会社の実態の把握ができるようになっています。いわば熟練工のようなもので、私以外にも相当数の“熟練会計人”がいるに違いありません。会計士の資格など、勿論関係ありません。
私達が考えた『Uチャート分析』は、この2つのプロセスを眼で見て感覚的に分かるようにしたものです。
製造業の分野ではロボットが大活躍しています。中には熟練工をはるかにしのぐロボットさえあります。ところが企業会計の分野ではどうでしょうか。コンピュータが導入され、一見して進んでいるように見えるものの、内容はおそまつなものです。経営の現場において、会計データが必ずしも役に立っていないからです。

「Uチャート分析」は、実務の分野で役に立つロボット開発への第一歩であると言えるでしょう。完成度は決して高いものではありませんが、取り敢えずインターネットの世界へ旅立たせることにしました。多くの人に実際に活用していただき、その結果をその都度システムに反映させていけば、よりよいものになるのではないかと考えたからです。会計は、世界共通の“言語”でもありますので、日本を手始めとして、順次、アメリカとかヨーロッパで上場されている企業にも及ぶ予定です。

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ここで一句。

“ケータイもインターネットもなくてすむ” -大阪、千羽鶴。

 

(毎日新聞、平成18年11月2日号より)

(スローライフ。手帳ナシ、ケータイもナシ、予定なし、わが満ち足りた田舎人生。)

 

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