Uチャート分析 -1

企業は人なり、と言います。経営者なり社員の人柄を見るとその会社の一端が分かる、あるいは、企業にとって一番大切なのは、お金でも設備でもなく、人材だ、ということです。経営者と社員とが一緒になって、多くのステークホルダー(利害関係者)、例えば得意先、仕入先、金融機関、行政、株主などの利害を調整しながら、その目的とするところを目指して作り上げていくのが企業だからです。



そのようにして形づくられる企業の実態を測るモノサシの一つが決算書です。もちろん決算書だけで企業の実態の全てが明らかになる訳ではありません。しかし、決算書を抜きにして企業を語ることはできないでしょうし、その経営者を語ることもできないでしょう。このような意味から、決算書は企業の実態をつかむ上で欠かすことのできない重要な情報なのです。

上場会社の場合、証券取引法によってキチンとした決算書を公表することが義務づけられています。決算書を中心にして、公表することが定められている多くの情報が、報告書の形式で公開(これを開示、ディスクロージャーといいます)されています。有価証券報告書といわれているものです。
かつては、証券取引所とか財務局まで出向いて閲覧するか、あるいは、政府刊行物として販売されている冊子(有価証券報告書を縮小して印刷したものです)を買い求めるか、いずれかによらなければ各企業の有価証券報告書を見ることができませんでした。
ところが、現在ではどうでしょうか。全ての上場会社の有価証券報告書がネット上で公開(「EDINET」)されており、簡単に見ることができるようになっています。私が会計士業界に足を踏み入れた三十数年前には考えることさえできない、夢のようなことです。全上場会社の機密情報が、テンコ盛りになってネット上に存在し、いつでも瞬時に取り出すことができるのですから。

このような上場会社の内部情報の宝庫とも言うべき有価証券報告書は、もちろん各方面でそれなりに活用されてはいます。
しかし、私の見るところ、その活用はごく一部の専門家に限定されているようです。少なくとも、よくテレビとか経済雑誌に顔を出して会社とか経営者のことを論じている経済学者とか経済評論家の類いでさえ、どうも有価証券報告書を見ていない、あるいは見ているとしても一部の表面的な数字をなぞっているだけではないかと思われます。
更には十分に活用していると一般には考えられている日本経済新聞などの経済紙とか、数多く出版されている経済雑誌などを見ていますと、情報の宝庫ともいえる有価証券報告書が必ずしも十二分に活用されているとはいえないようです。
何故か。その理由は次の3つにあると考えられます。

一つ目は、公表された数字をそのまま取り上げるにとどまっており、数字の裏に隠された真実を見ようとしないことです。
書かれた文章を深く読み込むことを「行間を読む」とか「眼光紙背に徹する」とか言いますが、決算書についても同じことが言えます。それぞれの数字に込められた真実を読み取ること、場合によったら数字に施された口あたりのよい細工(粉飾、お化粧のことです)を剥ぎ取ることが必要になってきます。決算書の分析はここまで踏み込まなければ、企業の実態に迫ることはできず、「論語読みの論語知らず」と揶揄されることでしょう。

二つ目は、分析の仕方が旧態依然としていることです。経営分析と銘打った書物は巷にあふれていますが、ほとんどが多くの分析数値をいじくりまわしているにすぎないものです。これらの分析数値は、一部の指標を除けば、実務的にはほとんど役に立たないものです。それどころか、誤った判断に導くものさえあるようです。実際に企業を分析して記事にしているマスメディアの多くがこれらの「教科書」に従っており、企業の実態を現実に即してつかみとることができていないようです。

そして三つ目は、有価証券報告書が一般の人のみならず、経済とか会計の専門家にとっても、とっつきにくいやっかいなシロモノであることで、これが3つの中でも最も大きなものでしょう。

このように3つの理由が考えられるのですが、中でも3番目の理由である、分りにくさ、とっつきにくさを解消することができるとすれば、つまり、とっつきにくいものを、より身近にひきよせることができるならば、第一と第二の理由、すなわち原因も自然に解消されるかもしれません。有価証券報告書をもっと身近なものにできないか、もっと使い易いものにできないか、と考えた末に辿り着いたのがユーザビリティ(Usability、使い易さ)を中心に置いた分析の方法でした。
私達はこれをユーザビリティ・チャート分析、略してUチャート分析と名づけ、プログラムを組み立てることにしたのです。

【追記】 Uチャート分析については、弊社が提供する「EDIUNET」にて具体的に確認することができます。(例:トヨタ自動車

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“一台とカツラ数えること知らず” -高知、小島雅博。

 

(毎日新聞、平成18年10月21日号より)

(数助詞の多様性は日本文化の華。イカは一盃、タコも一盃、おちょぼ口のフグも一盃。)

 

Loading