疑惑のフジテレビ -5

フジテレビがライブドアと基本合意をした、昨年の4月時点に立って考えてみましょう。

ライブドアという会社は一体どういう会社であると見られていたのでしょうか。認知会計の手法に従って、いわばライブドアの世間的評価等についての棚卸し(インベントリー)をしてみます。



まず、コンプライアンス(法令遵守)という観点に絞ってみますと、次の3つの事実が明らかになっていました。

+最近の一年以内に、矢継ぎ早に3回にわたって都合1万分割もの株式分割を敢行し、その前後にライブドア株が乱高下していること。
+特殊な転換社債(MSCB-2010満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債)を発行することによって、リーマンブラザーズから800億円もの資金調達を行ったこと。
+2.の資金をもとに、ニッポン放送株を時間外取引で大量に取得したこと。

これら3つの事実について、ライブドアは、直接的に禁止する法の規定がないから適法であると言いつのり、監督官庁である金融庁とか証券取引等監視委員会も違法ではないとして黙認していました。
大方の法律学者とか弁護士が違法ではないと大合唱する中で、明解に違法であると断言していたのは、私の知るところでは、早稲田大学の上村達男教授ただ一人でした。教授は、

「証取法の包括規定を適用すれば、直ちに違法である」

と、証取法に通暁している法律学者の立場から警鐘を鳴らしていました。

このように、ごく一部の有識者によってライブドアの違法性が指摘されてはいたものの、ライブドアの行った数々のいかかがわしい行為は、企業倫理には悖(もと)るものではあっても、違法とまでは言えないとするのが、当時の大方の見方でした。
つまり、ライブドアという会社は、法にさえ触れなければ利益を得るためには何でもやる会社であり、法の抜け穴を捜し出しては金儲けのチャンスにするような会社である、更には、法に触れることであってもバレなければいいと考えている会社であると考えられていたのです。法の立法趣旨などおかまいなしに、抜け道を見つけ出しては次から次へと実行していくわけですから、まさに法を僣脱するものであり、脱法行為そのものです。ウラ社会の住人が人に隠れてひそかに行うような脱法行為を、あろうことか、上場会社の社長が堂々と公言し、実行しているのです。まさに前代未聞のことと言っていいでしょう。

フジテレビが440億円を出資することに合意し、一ト月ほどの調査期間をとってデユーデリに着手した時には、すでにライブドアという存在が普通の上場会社ではなく、何をしでかすか分らない極めて危うい会社であることは、紛争の当事者であったフジテレビが承知していただけでなく、衆知の事実であったのです。

次に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)に関連して、詳しい調査をするまでもなく判明していたことは、次の2つの事実です。
+ライブドアは堀江貴文氏の事実上のオーナー会社であったこと。
+事業資金の調達は、自己資金(増資)によって賄われており、外部金融機関に頼る必要がなかったこと。
1.について。平成16年9月30日現在、堀江氏の持株比率は36.4%ですが、他の株主の大半は15万人余りの個人株主に分散されていますので、堀江氏の持株状況は群を抜いたものです。
筆頭株主である堀江氏を含めた上位10位までの大株主の持株比率を見ても、第2位は1.8%の日本証券金融(株)となっていますが、これは信用取引にかかる一時的な所有と考えられますので考慮外におきますと、第3位の杏林製薬(株)の0.6%をはじめ全て1%を切っています。
つまり、平成16年9月30日時点では、堀江貴文氏の一存で会社の全てのことが決定できる、事実上のオーナー会社であったということです。
尚、和解の合意がなされた直前である平成17年4月15日現在の堀江氏の持株比率は、24.1%と低下しています。これは、リーマン・ブラザーズが引き受けた800億円のMSCBの株式転換が、この日をもって完了(リーマン・ブラザーズは、平成17年3月10日を皮切りにして、10回にわたって転換請求をし、この日に転換を全て終えています)し、ライブドアの発行済株式総数が915,317,809株へと増大したことによるものです。
持株比率が36.4%から24.1%へ下がったとはいえ、リーマン・ブラザーズが転換した株式は直ちに市場で売却されており、多くの個人投資家に分散されていますので、堀江氏が圧倒的優位な立場にある大株主であることには変りがありません。

2.について。平成16年9月30日現在において、外部借入金等として、長短合せて51億円余りが計上されてはいるのですが、一方で308億円余りの現預金がありますので、事実上は無借金の会社と考えられます。
つまり、いわばお目付役的な存在である外部金融機関が存在していなかったということです。
尚、この日以降に、リーマン・ブラザーズに対して800億円の転換社債が発行されていますが、前述の通り合意契約を締結するまでに、全てが株式に転換されていますので、合意日である平成17年4月17日には、リーマン・ブラザーズは外部債権者ではなくなっています。

この2つの事実は、ライブドアが堀江貴文氏のワンマン会社であり、内部におけるチェック機能はもとより、外部からのチェック機能も全く働かない会社であったことを強く示唆するものです。
つまり、コーポレート・ガバナンスの点においても、極めて大きな問題を抱えた会社であったことがうかがえるのです。

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ここで一句。

“武部さん信じてあげて息子なら” -長崎、ダッファー。

 

(毎日新聞:平成18年2月11日号より)

(ウラ社会でも親子の絆は強いといいますよ。もしかして、政界もウラ社会?)

 

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