ホリエモンと小泉純一郎 -1

作家の渡辺淳一さんが、小泉首相のことをネオヤクザ(新ヤクザ)と称し、次のように述べています、-“小泉首相は一度でも敵と見たらあくまで敵で、相手の息の根を止めるまで徹底的に叩きのめす。
このやり方は、まさしく暴力団のそれと同じ。ストレートで明快で単純で、まわりには敵と味方しかなく、思いこんだら命がけ。それを貫き徹するまであきらめない。
ただし見かけは紳士的なので、新しいタイプの「ネオヤクザ」といったところ。
実際、首相のお爺ちゃん(山根注。“姓は小泉、名は又次郎、人呼んで「刺青の又」と発します。”)は、背中に昇り龍の入墨を彫っていた小泉組の幹部だったから、その血が隔世遺伝しただけかも。“
(“週刊新潮“ 2005.8.25号)

小泉さんがヤクザの孫であることは紛れもない事実ですが、今の小泉さんがヤクザであるかどうかについては議論の分かれるところでしょう。それにしてもネオヤクザというネーミングは、この作家ならではのもので、感心してしまいました。
その小泉さんが、ホリエモンと親分子分の盃をかわして、怨念の政敵である亀井静香さんのタマをとるために広島6区へ刺客として送り込んだのです。小泉さんならではのやり方で、まさに映画を地でいく“仁義なき戦い”ですね。刺客を迎え撃つ亀井静香さんの陣営には俳優の菅原文太さんまで助っ人にかけつけました。ドラマ顔負けのなぐり込みですから、テレビの絵柄としては格好のもので、テレビカメラは連日のように大金持ちのホリエモンのおっかけをしている始末です。あのホリエモンが時の首相のお墨付きをもらって堂々と政界に打って出ようというのですからマスコミ的には面白くないはずはありません。

ホリエモンのヤクザ顔負けの無法ぶりは、「ホリエモンの錬金術1~20」をご覧下さい。尚、渡辺さんがヤクザという言葉を使ったからといって、小泉さんが本当に日本刀をふりまわしたり、ピストルをぶっぱなしたりするいわば古典的なヤクザと同類だと言っているのではないでしょう。この点ホリエモンも同様で、本物のヤクザのように切ったはったをする度胸もなければ勇気もありません。一般社会人のふりをしながら、裏では反社会的な違法行為を繰り返している三下(さんした)、つまり、知性と人間性の欠落しているこざかしいチンピラといったところです。

この二人は親子ほど年が離れてはいますが、実によく似ていることに気付きました。

まず二人とも、非情な人物であるということです。元妻とか子供、あるいは仕事仲間などに対する人間としての情というものが、一般の日本人とかなりかけ離れているようです。冷血人間と言ってもいいでしょう。
これは善悪以前の問題で、二人にしみついているDNAのようなものでしょうね。
「世の中、おカネで買えないものはない」と言い放ち、人の心も女も、カネさえあればなんとでもなると、うそぶいているホリエモン。稼げば勝ち、と言ってのけ、お金を稼ぐためならば、恩人でも妻子でも平気で裏切り、切って捨てるホリエモン。
政治にしてもこの人物にかかったらお金に換算されてしまいます。3,000億円で自民党を買収するだの、あるいは40億円で自民党総裁の座を買い取るだのと、ノーテンキなことを言っているのはその表れです。日本の政権をお金で自分のものにして、思いっきり荒稼ぎをしようとでもいうのでしょうか。
世の中、おカネで買えないものはないと公言しているホリエモンですから、自民党をM&Aする位の感覚なのでしょう。面白いですね。

かたや、昨日の友は今日の敵とばかりに怨念を晴らすために全国に刺客を送り込み、かたっぱしから宿敵の政治生命をバッサリと断ち切ろうとしている小泉さん。
“柔肌の熱き血潮を断ち切りて仕事ひとすじわれは非情か”と詠んで非情であることを粋がっている小泉さん。
与謝野晶子の“柔肌の厚き血潮に触れもみで淋しからずや道を説く君”をパクッているようですが、女を断ち切っているのが仮に本当だとしても、それは女に飽きがきたのか、あるいはインポになっているかということでしょうし、男の仕事とはさほど関係はないと思うんですがね。それに仕事ひとすじとはいっても、政治家の小泉さんの日常をみていると、“一筋”というほど仕事をしているようには見えないのですが。
いずれにせよ、ご本人がおっしゃっているのですから、さぞかし非情なのでしょう。
二人とも、とても尋常の人間の感覚ではありませんね。

次に二人に共通するのは、軽佻浮薄ということです。二人とも芸能界とかテレビを中心としたマスコミが大好きで、様々な工夫をこらしては、ウケ狙いの演出に余念がありません。
共にものごとを深く考えることが苦手のようで、刹那的な言辞を弄しては、まわりを煙にまき、たとえ言動の矛盾を指摘されても平気でウソをついたり、見えすいた言い逃れに終止しています。
会社経営を単なる金儲けをするためのゲームであると考えているホリエモン。追っかけの女性レポーターの「二足のワラジなんですか?」との問いかけに、「いや、ヒマですから」とアッサリ答えるホリエモン。会社経営のヒマツブシに政治でもやってみようかな、といったところでしょうか。政治の世界もずいぶんとナメられたものですね。

かたや、ゲームでもしているように日本の政治を弄んでいる小泉さん。刺客本人は気がついていないようですが、小泉さんにすれば刺客はあくまで刺客であり、一回だけの使い捨てのテッポウ玉にすぎません。
イエスマンだけを身近において、持駒をあっちへやったり、こっちへやったりと、小泉さんにとっては何とも楽しいゲームなのでしょう。
二人のこのようなゲーム感覚の軽さが、一部のマンガ世代とかケータイ世代にうけるのかもしれませんね。

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ここで一句。

“ペコペコと踊る人いる盆踊り” -所沢市、荒木繁。

 

(朝日新聞:平成17年8月23日付 朝日川柳より)

(選者評、連呼つき。加えて、刺客第一号の小池百合子さん、にわか選挙区の踊りの輪に入って、“ニコニコと にわか市民に 早がわり”。)


【追記】

「ホリエモンと小泉純一郎-1~3」は、8月30日にアップする予定でした。しかし、この日は総選挙公示日であり、Webサイトでこのような記事を掲載するのは公職選挙法に抵触するおそれがあるのではないかとの指摘もありましたので、公表を差し控えていました。

総選挙の結果は、大方の予想をはるかに上回る小泉自民党の圧勝に終りました。これが現時点における国民の判断なのでしょう。この判断が歴史の座標軸において、どのように評価されていくのかは、今後にまたなければなりません。
日本においては、何でもありの策略を駆使して成立した政権が長く続いたためしはありません。ことに政敵だけでなく国民までも騙して政権を手に入れたケース自体、直ちには思い浮かばないほどですので、尚更です。

小泉さんをポピュリスト首相と呼び、ポピュリズムが国家に与える害悪について警鐘を鳴らしているのは、中西輝政さんです。(“宰相小泉が国民に与えた生贄”『文藝春秋』、2005年10月号)
国民がポピュリズムを選択した現在、冷静になって改めて小泉ポピュリズムの実態を見つめ直すのには格好の論文だと言えるでしょう。
いずれにせよ、小泉純一郎というポピュリストが、私達の国をどのようにしていくのか、しばらく注意して見ることにしましょう。

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ここで一句。

“勝ち組といっても長い目で見なきゃ” -神戸、金川千代。

 

(毎日新聞:平成17年8月19日号より)

(負け犬があっと驚くセレブにヘンシン、半年でやはり古巣へUターン。)

 

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