明確になった冤罪の構図-号外

 検甲18号証と検甲19号証は、社長夫人勘定残高と専務夫人勘定残高(前回)について、「手段方法(事実関係)」としてそれぞれ次のように記す。
「嫌疑法人A社の社長夫人が、専務夫人と共謀し、架空材料仕入高を計上することで得た不正資金のうち、社長夫人等の個人資金の形成に充てられていた金額である。」(検甲18号証。下線は筆者。)

「嫌疑法人A社の社長夫人が、専務夫人と共謀し、架空材料仕入高を計上することで得た不正資金のうち、専務夫人等の個人資産の形成に充てられていた金額である。」(検甲19号証。下線は筆者。)

 まず、2つの引用文のうち、それぞれ初めの下線部分、「架空材料仕入高を計上することで得た不正資金」について、告発書(検甲1号証)の記載、「架空材料仕入高を計上するとともに、売上の一部を除外する方法により、所得を隠匿した」と比較してみると、「売上の一部を除外する方法」の部分がスッポリと抜けている。えっ!!何故だ?と思って、売上高調査書(検甲8号証)を見直してみた。

 すると、トンデモないことが判明した。この調査書の中には、裏金を操作して売上を除外した実行行為者(犯則行為者)が存在しないのである。6ページにわたって引用されている供述要旨からは、A社の専務取締役が明らかに犯則行為者であることが示されているにもかかわらず、敢えて犯則行為者から外されている。

 A社の専務取締役は、社長夫人、専務夫人とともに平成30年11月28日に逮捕されているが、処分保留として保釈され、起訴されていない。逮捕はされたものの、事前の密約通り立件されなかったということだ。

 検甲18号証は、A社の売上を除外する方法で脱漏所得を生じさせた犯則行為を証明する書証であるのに、肝腎の「犯則行為者」が特定されていない。売上の脱漏に関しては、「犯則行為者」、即ち、「不正(脱漏)行為者」が存在しないのである。A社の専務を訴追対象から外して「訴因」を捏造したことが表面に現われたものだ。このような書証に、証拠能力などあるはずがない。

次に、上記2つの引用文のうち、それぞれ二番目の下線部分、「社長夫人等の個人資産の形成に充てられていた金額」
「専務夫人等の個人資産の形成に充てられていた金額」は、明らかに事実に反している。社長夫人と専務夫人は、7年間で2つの百貨店から6億7千万円もの買い物をしており、平成28年1月期と平成29年1月期に絞っても2億2千万円の買い物をしていることを忘れてはいけない(「前代未聞の猿芝居-⑧」)。

 同時に、平成29年11月14日の査察部門のガサ入れ時に、二人が大量に購入していた物品のほとんどが見つからなかったこと、及び、購入品の大半は、ブランド品・宝飾品買取会社に横流しされて現金化され、個人的に費消されていたことも忘れてはいけない(「前代未聞の猿芝居-⑨」「前代未聞の猿芝居-⑬」)。

 これらの事実が二つの表の右欄・「収支」に反映されていない。

 収支の欄の数字は、収入の部では、役員報酬、年金収入その他を除き、支出の部では、きもの屋、呉服店、その他を除き、全てデタラメの数字である。中でもデタラメが顕著であるのは、収入欄のブランド品売却収入だ。

ブランド品売却収入は、二年間で二人合わせても、わずかに350万円である。申し訳程度の金額が記されているが、数字のケタが2ケタほど違っているのではないか。

 ブランド品売却収入のほとんどがスッポリと抜けていると同時に、それと見合う額の支出(使途不明金)が、支出欄から抜けている。

 その結果、本件の場合マイナスになるはずのない可処分所得がマイナスとなり、そのマイナスの金額が調査表の左欄にマイナス項目として移記されているために、マイナスのマイナスで、それぞれの仮勘定にプラスに作用している。

 結果的にそれぞれの仮勘定はプラスとなっているが、本来この仮勘定はプラスとはなりえないものだ。

 理由は簡単である。社長夫人、専務夫人はともに、脱税して得た資産(タマリ)をほとんど残していなかったからだ。社長夫人によるマネー・ローンダリングによってタマリが換金され、その都度消えてしまい、ガサ入れ時にタマリが見当たらなかったのである(「前代未聞の猿芝居-⑨」「前代未聞の猿芝居-⑬」)。

 社長夫人勘定と専務夫人勘定の2つの勘定項目が、A社の資産項目(仮払金)になりえないのに資産項目になっているのは、真実は「社外流出(横領)」であるのに、密約によって「社内留保」(横領ではない)にスリ替えられたからだ(「前代未聞の猿芝居-⑱」)。

 以上のことは、「資産ではないものを偽って資産として認識していること、つまり架空資産を認識している」ことを意味する。

 筆者は、A社の税務代理人を解任され、A社の修正申告書を確認することができなかった。筆者が解任された後に提出された修正申告書の「別表4(税務上の損益計算書)と別表5(税務上の貸借対照表)」には、資産性のない資産(架空資産)が、社内留保として「役員仮払金」に計上されているはずである。

(注)本稿は、令和元年6月10日までに書き終え「前代未聞の猿芝居-㉖」として公表する予定であった。

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