前代未聞の猿芝居―⑰

  1.  4日後の平成31年3月8日、掛内典生統括官は、筆者の調査手続に関する質問に対して次のように回答した。松江税務署に帰って確認した結果である。
    この時の同席者は、A社の新社長、経理課長及び刺客・伊藤秀之税理士の三人であり、弁護士(本件の弁護人)は同席していない。筆者が同席を呼びかけたものの弁護士が出てこなかったのは、あるいはこの日の掛内典生統括官の回答内容を事前に知っていたからかもしれない。
    この回答内容こそ、まさに筆者が発見した(「冤罪を証明する定理」(山根定理))を別の側面から証明するものだったからだ。

    掛内典生統括官の回答

    1. 調査の開始手続については、局第2リョウチョウの職員が、平成29年9月26日に、A社の本社事務所において、A社の社長夫人、専務及び森山文夫税理士に対して行っている。
    2. 物件の留置きについては、局第2リョウチョウがA社の社長夫人から、平成29年9月26日と、平成29年9月26日の2回借りており、借りていた物件(書類)の全てを平成29年11月14日(査察部門によるガサ入れ当日)に、A社の専務に返却した。
    3. 証拠物件(留置物件、押収・領置物件)が現在どこにあるのか、松江税務署としては把握していない。松江税務署にはない。

    上記の回答のうち、

    1. は事実と異っている。
      局第2リョウチョウがA社に対して行った調査は、事前通知を要しない調査としてなされたものである。
      リョウチョウは、国税通則法で定められた事前の通知(国税通則法第74条の8)はもとより、例外的に事前通知を要しない場合(国税通則法第74条の10)であっても、臨場後速やかにすべきとされている事後的な通知(事務運営指針。-平成24年9月12日、国税庁長官、課総5-11)をしていない。即ち、調査開始の手続きがなされていない(「エセ同和団体の“生贄(いけにえ)”は、今-⑵」)。
      平成29年9月26日に、A社に対して事前通知を要しない調査(国税通則法第74条の10)を行ったことは事実であるが、臨場後速やかにすべきとされている事後的な通知(事務運営指針。-平成24年9月12日、国税庁長官、課総5-11)がなされた事実はない。
    2. リョウチョウが証拠物件として2回にわたって留置し、ガサ入れ当日全ての証拠物件をA社の専務に返却し直ちに査察部門が押収したのは事実である。
      しかし、調査に強制力を有するリョウチョウが留置した証拠物件を、調査が終結する前に、査察部門に回付することを可とする調査手続は存在しない。
      リョウチョウが、留置物件を調査が終結する前に査察部門に回付した行為は、国税通則法の手続き規定に反する違法行為である。
    3. 証拠物件(留置物件、押収・領置物件)の現物が現在どこにあるのか、とする筆者の質問に対して、筆者と掛内典生統括官との生(なま)のやりとり(本稿の末尾に掲載する)を公開する。
      尚、この会合については、出席者全員の了解の上で、テーブルの真中にICレコーダーを置いて録音したものであり、隠しどりをしたものではない。

    筆者が、証拠物件の現物について突っ込んだ質問を始めたら、掛内典生統括官はパニックに陥ったらしく、なんだか訳の分からないことを口走りながら、ついに真実を吐露するに至った。要旨は次の通りである。

    「証拠物件の現物は、自分が赴任する前から松江税務署にはない。現物が現在どこにあるか分からない。松江税務署の調査は、証拠物件の現物にもとづく調査ではない。当方では単に「調査した」としか言いようがない。」

    ここで明らかになったことは、松江税務署が国税通則法に基づく調査を行っていないことだ。即ち、掛内典生統括官が2時間にわたって読み上げた調査結果は、査察部門から回付されてきた内部資料をもとに作成されたものであることだ。
    即ち、リョウチョウから査察部門に回付された内部資料(「前代未聞の猿芝居-⑨」)をもとに、査察部門が刺客・伊藤秀之税理士との秘密交渉(「前代未聞の猿芝居-⑯」)を行った結果こそ、掛内典生統括官が読み上げた調査結果(次回で述べる)そのものであった。

(この項つづく)

「掛内典生統括官との会合記録」

日時 平成31年3月8日 14:00pm~
場所 山根会計事務所
出席 A社新社長、経理課長、伊藤秀之税理士、山根治税理士
松江税務署 法人課税第二部門
統括国税調査官 掛内典生
上席国税調査官 陰山典保

山根:昨日(電話で)話した通りでございまして、実は昨日、こちらの社長と専務が私の所に来られましてお話がございました。A社としては取締役会を開いて協議した結果、税務署の言う通りに修正申告をして税金を納めるという方針にしたということでございまして、そういうことでしたね。
社長:はい。
山根:そういうことで、色々と会社の内情のこともお話になりまして、会社の体制も一新して、経営陣も一新して、今、再建に向かっているんだと。容易なことじゃないけれど、向かっていると。松江商工会議所の中にある再生協議会も、三行、山陰合同銀行、政策金融公庫、商工中金の三行とも、会社を支援してやっいく方向で、今進んでいると。同時にご存知のように、通常の税務調査じゃないんで、刑事事件が進んでいるんで。刑事事件の方で、あまりゴタゴタしたくないと。すんなりとやって行きたいと。そういう経緯もございまして、刑事事件で揉めることは避けたい。そういう趣旨でございまして。会社は納得した上で、修正に応じますと。会社の意向がそういうことであるならば、私も会社の代理人でございますから、とやかく言うことはないんで、どうぞと。
会社の意向をお聞きして、あなた方にお伝えして、事を進めるということでございまして。今日、伊藤さん(伊藤秀之税理士)は監査役だから、取締役会はいつ開かれました?
伊藤:えーっと、月曜日だね。
山根:月曜日だったら
社長:4日ですね。
山根:3月4日?
社長:はい。
山根:議事録は作っていますか?
社長:はい(不安そう)
山根:作ってあればいいけど、もし作ってなければ議事録は正式に作って下さい。
社長:はい。
山根:これね、今、刑事事件が絡んでるから。やはり、あなた方もきちんとしたことをしとかないといけないんで。ちゃんと、何月何日、どこで誰がどういう趣旨でこういうことを決めたか、今私が言ったようなことを、もうちょっと詳しくまとめて文書にしといて下さい。
社長:はい。
山根:あなたね。(伊藤税理士に)
伊藤:はい。
山根:これを確認して下さい。
伊藤:はい。
山根:そういうことでですね、
社長:はあー(長いため息)
山根:ゴチャゴチャ言いませんよ。

(略)

掛内:料調です。えー、平成29年の11月14日。これは返還です。全ての書類(注、留置物件のこと)をこの日に返還しております。相手はA社の専務。
山根:全てをね?
掛内:はい。
山根:それから?
掛内:それだけです。
山根:いやいや、返還したといっても、今まだたくさんの物があるでしょう?
掛内:いや、この時点で、全ての物はお返ししてます。
山根:うん。
掛内:はい。(声が小さくなる)署としては全ての物をお返ししてます(語尾がだんだん不鮮明に)
山根:だけど、現在、持っていらっしゃいませんか?
掛内:現在は当署にはございません。
山根:誰が持ってるの?
掛内:わかりません(笑、即答)それは、こちらの(笑)方(伊藤秀之税理士)で聞かれた方が。
山根:いやいや、そうじゃなくて。
掛内:えー。
山根:まだブツはA社に返ってないでしょう?
掛内:あの。当初は(大きな声で)お返しておるということです。その後、査察とかいう話になると、これは私等の範疇ではないんで。
山根:この時点で。
掛内:署としては全てお返しした。
山根:お返ししてる?
掛内:はい。
山根:その後はわからない?
掛内:・・(沈黙)
山根:うん?
掛内:そうです。
山根:査察っていうことはわからないということ?
掛内:そうですね。(少し間あり)
山根:わかんないね?
掛内:はい(小さい声で)
山根:わかんない。はい。それから?
掛内:以上です。
山根:以上?
掛内:はい。
山根:まだ物件はA社に返って来てないでしょう?(A社の経理課長に尋ねる)
経理課長:私は全然知らない。ないですよ。
山根:ないでしょう?広島の国税が持っているのか、こっちの方に送られているのか、どっちかだね?
掛内:そうだと思われます。
伊藤秀之税理士:検察と両方に分かれている。(掛内典生統括官に対して)わかんない?
山根:今日のこれについてお聞きするんだけれど、今日の調査結果、あなた方の調査はどの資料に基づかれたんですか?
掛内:・・ある資料でやったとしか(笑)言いようがないです・
山根:ある資料って?
掛内:ええ。
山根:もう返還してしまったら、手元に資料はないわけでしょう?
掛内:・・写しは取ってます。
山根:えっ?全部を?
掛内:はい(小さい声で)
山根:全部も写しを?膨大な物を?
掛内:・・うちでお借りしてるのは、まああのう、内訳(注、査察部門から回付されてきた増差額の内訳書のこと)があるんで。膨大というのはどの辺まで膨大と言われるのかわかんないですけど。
山根:写しはどうされたんですか?写しはどこにあるんですか?
掛内:・・・(沈黙)
山根:今、あなたね。
掛内:はい。
山根:今、この説明された金額ね。
掛内:はい(不安そうな小さな声)
山根:調査結果を言われたんだけども、この金額も非常に膨大なものですよ。
掛内:ええ。
山根:それは何に基づいてされたかということです。
掛内:それはあくまで当方で調査したとしか、もう言いようがない。
山根:あなた方、調査したって、ここで(注、一年以上前の平成29年11月14日のこと)もう返還してるでしょう?
掛内:ええ。
山根:だってあなた、この時(返還の時)はまだA社の件にタッチしてないわけでしょう?
掛内:私は(松江税務署に)おりませんから(声が裏返る)
山根:うん。
掛内:はーい。ですが(笑)当方で調査したとしか、もう言いようがないですね。ええ。
山根:そうですね。
掛内:しか、もう、先生(笑)
山根:それは正直で。
掛内:ええ。えへへ(笑)

※みんな笑い

山根:今日は追及する場所じゃないんで。あなたは非常に正直でよろしい。
掛内:(笑)言えない範疇なので。ええ。
山根:いや、それは言えないしね。言ったってね、あなたね、統括。
掛内:はい。
山根:言ったってすぐわかるんでね。足跡が全部内部に残ってるんでね。後は、内部の公文書開示を請求したら、全部出てきますよ。だから、あなたは正直でいい。(笑)
掛内:いえいえ。(笑)
山根:非常に正直でよろしい。

※みんな笑い

山根:わかりました。
伊藤秀之税理士:たぶん、わかる範疇はこれしか。二人はわからないので。
掛内:すみません(笑)

(略)

山根:だけどいいですよ。私はあなた方の調査を了解してるんじゃないよ。会社がそういうん(注、修正申告に応ずるということ)だから、私はもうそれ以上言いませんと。今日はあなたね。この間の私の問いかけに対して、非常にね。
掛内:(苦笑)
山根:正直に話されたから。
伊藤秀之税理士:あのう、穏やかにやって下さいよ。先生。
陰山典保上席調査官:ありがとうございます。(笑)

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