嘘から出たマコト-①

 平成29年6月19日、読売新聞が報じた内容は、驚くべきものであった。国税庁が脱税事件について、これまでは公表してこなかったが、今後は全て公表することにしたというものだ。

+法人や個人の名称

+告発の概要

などを、すべての事件について公表するというのである。

 平成29年6月19日といえば、共謀罪に関して法務委員会をスッ飛ばす荒技を駆使して、いきなり本会議の採決に持ち込み、夜通し国会を開いて早朝に採決するという、安倍晋三内閣がいわば“禁じ手”を行なったその日である。
 国税庁は共謀罪法案の成立を確認した上で、間髪を入れずに上記の内容の方針を公表したものだ。待ってましたと言わんばかりである。

 たしかにこれまでは脱税事件の告発については、個別具体的な報道がなされてきたことはまぎれもない事実である、しかし、それは国税庁が堂々と公表してきたものではなかった。記者クラブに属するなど特定の報道機関に対してひそかにリーク(情報漏洩)してきたのが実際のところである。
 何故、堂々と公表することができなかったのか。また何故、リークに頼らざるを得なかったのか。
 理由は簡単だ。
 堂々と表立って公表することができなかったのは、秘密漏洩罪(国税通則法126条1項)に該当するおそれがあったからだ。
 国税通則法126条1項は次のように定めている。

「国税に関する調査(国税の犯則事件の調査を含む)の規定に基づいて行う情報の提供のための調査に関する事務に従事している者又は従事していた者が、これらの事務に関して知ることのできた秘密を洩らし、又は盗用したときは、これを二年以下の懲役または百万円以下の罰金に処する」

 また、何故、情報の漏洩をしなければならなかったのかについて言えば、情報の漏洩によって嫌疑者に対して甚大なプレッシャーを与え、人格を破壊(Character Assassination)し、刑事裁判を国税庁側に有利に運ぶためであった。これまで国税庁が脱税事件の

“有罪率100%!!”

と豪語してきた裏に、このようなおぞましい原因が潜んでいたのである。

 それがこの期(ご)に及んで、何故方針を一変し情報公開に踏み切ったのか。これもまた答えは簡単だ。共謀罪が成立したからである。
 これまで長い間、脱税という犯罪は、「税を免れたこと」という既遂のみを罰する犯罪であったのが、未遂はおろかその前の段階である「準備」をしただけで処罰できるようになったからだ。
 例えば、租税回避地(タックス・ヘイブン)に“節税”用のペーパーカンパニーを持っている個人や会社は、現在の日本にはたくさん存在する。このようなペーペーカンパニーを持っているだけで、脱税の準備罪と認定されかねないということだ。
 するとどうなるか。これまで長い間、脱税の既遂とは、実体法の規定を無視して、

“法定納期限の徒過”

という、誤った最高裁の判例を金科玉条にしてきた国税庁の誤りを気にしなくてもよくなったということだ。

 しかし、以上のことは、問題が根本的に解決したことを意味しない。国税庁が自らの誤りをチョロマカすための小細工にすぎないからである。
 租税法に定められた脱税の犯罪構成要件は全く変ってはいない。ただ特別法によって脱税の準備罪が設けられただけだからだ。
 もともと現在の租税が規定する脱税犯罪は成立しない、即ち、冤罪である事実に変るところがないことから、今後は冤罪である脱税の本罪は成立しないのに、脱税の準備罪だけ成立するというまことに奇妙なことが起るであろう。矛盾である。

 いずれにせよ、前稿で述べた通り、このたび無茶苦茶なやり方で成立した共謀罪の対象となる277もの犯罪のうち、
所得税法 と
法人税法
の2つが国税庁に関するものであり、この2つの法律の罰則に準備罪を設けることが、ニッチもサッチもいかなくなった国税庁の苦肉の策であったことが端なくも露呈したということだ。
 まさに、嘘から出たマコト(本音)である。

(この項つづく)

 

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