大塚家具の親子ゲンカ-④

 大塚勝久氏から(株)ききょう企画に130万株の株式が移動しているのは、大塚勝久氏の相続税対策ではないかと前回指摘し

 私の推察が的を射ているとすれば実際のところは次のようなことではなかったか。



 まずこの相続税対策のシナリオを作成して大塚勝久氏に提案し、実行させたのは誰かについてであるが、それは銀行筋ではないか。

 何故か。(株)ききょう企画が130万株の株式を大塚勝久氏から買い取るためには、当時の大塚家具の株価から計算すると40億円前後の資金が必要になる。しかし、(株)ききょう企画にはその資金がない。資金については銀行筋が用意すると持ち掛けた。大塚勝久氏はもっともらしい相続税対策スキームにうっかり乗ってしまった。

 この結果、(株)ききょう企画には130万株の株式が積み増しされると同時に、銀行からの借入金40億円ほどが残ることになった。この結果、(株)ききょう企画は多額の借入金に縛られて事実上銀行の支配下に入った。

大塚家具はもともと無借金の会社だ。従って銀行の思惑など一切気にする必要がなかった。銀行側からすれば面白くない。何とか金を貸してコントロール下に置きたいとつねづね考えていたのではないか。
 そこで用意されたのが相続税対策というエサであった。擬似餌である。実はこの時期、大手の銀行が、融資をからめたこの手の相続税対策スキームを全国的に持ち歩いていた事実がある。ターゲットは、上場企業のオーナー的経営者だ。無借金の優良企業にネライを定めて怪しげな融資企画を盛んに売り込んでいたのである。
 事実、その当時私のところにも3件ほどオーナー的経営者から相談が舞い込んできた。私はそれらのスキームをいくつかのケースに分けて検証してみたが、すべてのケースで銀行側のメリットだけが認められ、オーナー的経営者の側にはメリットがないどころか、デメリットさえあるトンデモないシロモノであることが判明。3人とも、私のアドバイスによって怪しげな企画に乗ることはなかった。

 ここで、大塚勝久氏にこのような企画を持ち込んで実行させたのがいるとすれば誰か具体的に考えてみる。もちろん推測である。
 有価証券報告書の記載等からすれば、三菱UFJグループが最も可能性が高いようだ。
 何故か? この銀行のグループ内で大株主の移動がなされているからだ。第5表の持株の移動のうち、3.の三菱UFJニコス(株)から4.の(株)ジャックスへの48万株式の移動は、ちょうどこの時期(株)ジャックスが三菱UFJグループの傘下に入っていることから、いわば身内でのタライ回しだ。
 今一つのそして最も大きな理由は、当時、類似の怪しげな融資企画を持ち歩いていた金融機関の一つが、他ならぬグループの中核をなす存在である三菱UFJ銀行であったことだ。
 三菱UFJ銀行が作成した相続税対策の企画書について、今でも鮮明に覚えていることがある。
 一定のプログラム・ソフトが用意されていたようであるが、私が目にした実際の企画書はトンデモないシロモノであった。ところどころに依頼主もしくは、その会社とは全く関係のない固有名詞が残されている、なんともオソマツなものであった。他の会社の企画書を作った後に作成されたものらしく、データの消し忘れの痕跡が歴然として残っていたのである。スキームの内容もさることながら、内容以前のオソマツさであった。
 近年、金融機関の経済マフィア化が指摘されているが、相手を騙してでも自らの利益を追求する姿が端的に示されているズサンな融資企画書であった。

 以上、推測を混じえた私の指摘が正しいものであるとすれば、三菱UFJグループは事実上の支配下に置いた(株)ききょう企画の株式に自らのグループ会社である(株)ジャックスの株式を加えると、12.22%(平成20年12月末現在)を所有する第二位の大株主となり、大塚氏の18.04%に肉迫する勢力となった。他の10位までの大株主を見てみると、
+大塚泰雄  622千株(3.21%)
+大塚千代子 371千株 (1.91%)
以外は次のように全て金融機関・ファンドである。

株主 株数 持株割合
1.日本生命保険相互会社 1,232千株 6.35%
2.東京海上日動火災保険株式会社 624千株 3.22%
3.日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社 570千株 2.94%
4.日本マスタートラスト信託銀行株式会社 419千株 2.16%
5.株式会社三井住友銀行 399千株 2.06%

(以上、平成20年12月末現在)

 以上から判明することは何か?三菱UFJグループをはじめとして他の金融機関が一本にまとまるものとすれば、大塚勝久氏側の持株を上回っていることだ。大塚勝久氏側は、かつて30%ほどの株式を保有しており、上場会社としてはオーナー的立場の経営者として会社に君臨することができたのであるが、それができなくなったのである。
 このように考えてくると、このたびの前代未聞の親子ゲンカは裏で金融筋が糸を引いている猿芝居ではないかということになる。
 金融筋の真のネライが何であるか定かではないが、利益を得るのはもっぱら金融筋であり、損失をこうむるのは親と娘であり、なによりもブランド・イメージに傷がついた大塚家具であるということだ。
 近年、不可解な会社倒産劇が多発しているが、その裏に騙しのフィクサーとして必ず金融機関とか弁護士が蠢(うごめ)いているのと同様の構図ではないか。

***追記
 (株)ききょう企画が所有する株式をめぐって、大塚勝久氏が驚くべき実態を語っている(週刊朝日、2015年4月3日号)。

「ききょう企画は、もともとは長男が株式の半分を持っていました。久美子はそれを兄弟姉妹に分配してほしいと懇願し、長男は二つ返事で応じたのですが、その後、妻と長男を14年1月、役員から排除し、実質支配できるようにしました。
 それに、私がききょう企画に譲渡した130万株のための借入金返済のために私が引き受けた同企画の社債15億円も償還期限が来ても返してくれない。その上、差し押さえを免れるために13年10月に久美子はききょう企画が持つ189万株(約20億円分)の大塚家具株式を自身に譲渡担保する契約を締結し、取引の実態を伴わない偽装をしてしまいました。」

 これでは、大塚久美子氏が、父親と長男とを騙して(株)ききょう企画の支配権を握ったことになる。詐欺師が会社を乗っとるために用いる騙しのテクニックと変るところがない。実の娘が詐欺師まがいの行為を父親に対して平然と仕掛けてきたのであるから、大塚勝久氏の当惑と驚きは察するに余りある。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

”造作に余り触れずに目がきれい” -静岡、石垣いちご

(毎日新聞、平成27年3月21日付、仲畑流万能川柳より)

(項(うなじ)がキレイ、手がキレイ、足がスラッとしていてスタイルがいい、
“造作に触れずにおこう春の風”)

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