11/28講演会「闇に挑む『原発とは何か?』-福島第一と島根-」-8

****2)原賠法の“穴”―会計工学と会計法学

 原賠法の“穴”、つまり盲点についてお話します。お手元に配りました資料2の「原賠法による損害賠償スキーム」をもとに説明いたします。まず、原子力損害については民法の特別法として、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)というのが、今から60年前の昭和36年にできております。私はこの年に松江商業を卒業していますので、個人的には覚えやすい年です。

 この原賠法のポイントは3つあります。一つは、原発を運営する電力会社に無過失責任を負わせている点。二つめは電力会社に無限責任を負わせていること、三つめは責任を電力会社に集中させている、すなわち、電力会社以外、政府も含めて、原発のメーカーもそうですが、原発事故が起こっても損害賠償責任は一切問われないという仕組みになっております。さらに、損害賠償をどのようにしていくかについては、次のように金額によって分けられております。

 ざっくりと申しますと、1,200億円までの原子力損害については、政府が損害賠償をすることになっています。地震、噴火、津波による損害については、1,200億円までは政府がその損害を肩代わりしなければいけない。問題は、1,200億円を超える損害が出た場合、これが現在、東京電力が抱えている問題です。1,200億円を超える場合については、政府は必要がある場合に国会の議決の範囲内で、必要な援助を行うこととされています。これはあくまでも必要な援助ということであって、補償ではない。しかも、この援助には2つの条件がついております。無条件ではない。一つは被害者の保護に役立つこと。二つは原子力事業の健全な発達に資すること。この二つの条件がつけられております。中でも、2番目の原子力事業の健全な発達という条件が肝腎なものです。経営がすでに破綻しているような場合には原賠法は適用されないと考えられているからです。

 では、経営が破綻している状態とはどのようなことか。東京電力について具体的に考えてみます。原発事故がある前までは、東京電力の内部留保(純資産)が2兆5千億円。それがそっくり消えて、更にはマイナスになっても構わないのですが、せいぜいその2倍位まで、最大限に見ても4倍位までであろう。東京電力の場合、売上高が5兆円もあるのですから、その1.5倍の7兆5千億円の債務超過になったとしても、経営努力をすれば自力でなんとかできる。ところが、債務超過が7兆5千億円を超えると自力での再建は絶望的だ。つまり、原子力損害の額は概ね、10兆円の範囲内に限定されるというのが条件であろうかと思います。その範囲を超えますと、経営が成り立っていかない、自力では立ち直ることができない、すなわち経営破綻の状態になると考えられますので、2つ目の条件をクリアすることができない、つまり、原賠法の適用がないということになってきます。資料2(講演会配布資料)の中ほどに出しました図式で示した“穴”の領域です。何もかも呑み込んでしまう、いわばブラックホールのような存在です。この“穴”の領域を明らかにして確定するのは会計工学、あるいは会計法学です。東京電力は平成23年3月期の有価証券報告書において、「継続企業(ゴーイング・コンサーン)の前提に重大な疑義あり」と表明していますが、以上のような経営破綻の状態を会社自ら表明しているわけです。ただ、ゴーイング・コンサーンとしての経営破綻の時期を意図的に偽って繰り延べた。東京電力は何故このようなミエミエの小細工をしたのか。このような小細工をしなければ、原賠法の適用が受けられなくなる、つまり、東電救済スキームが空中分解してしまうからです。

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