400年に一度のチャンス -17

***17.公務員人件費の削減④-マクロ経済に与える影響①

 360万人の公務員を中心とした1,000万人に及ぶ“金食い虫”の存在と、片や、まともな生活を維持することができない1,700万人のワーキング・プアの存在。現代日本を労働力の観点から俯瞰(ふかん)すると、このような図式が現われてくる。

 これまで公務員の給与は、慣行として行われてきた人事院勧告という錦の御旗のもとで、事実上野放し状態であった。民間の給与水準との比較(国家公務員)、あるいはラスパイレス方式による国家公務員給与水準との比較(地方公務員)など、1,700万人のワーキング・プアの存在などを全く考慮に入れていないもので、ゴマカシである。

 人事院勧告。人事院は公務員の身内(みうち)である。身内が身内の給与水準を査定するのであるから、どのような方法によって査定しようとも、公正な査定は期待できない。これまで長い間惰性的に繰り返されてきた人事院勧告は、いわばデキレースであり、茶番劇であったということだ。国民の眼を欺く八百長である。

 ワーキング・プア。イギリスにおいて16世紀の前半に最初に現われたとされる“貧民”(pauper、ポーパー)に相当するものだ。この貧民問題を大きな社会現象として捉え、その発生原因を市場経済そのものに求めたのが、カール・ポラニーである(K.ポラニー、“大転換”-市場社会の形成と崩壊 吉沢英成他訳、東洋経済新報社刊)。

 カール・ポラニー(KarL PoLanyi)。1886年ウィーンに生まれ、1964年77歳でカナダに没した、ハンガリー系の社会科学者である。筆者がポラニーの存在を初めて知ったのは二年前、中谷巌著「資本主義はなぜ自壊したのか-「日本」再生への提言」(集英社インターナショナル)によってであった。
 この中谷氏の著作は、グローバル資本主義というモンスターの負の側面を見事に抉(えぐ)り出している。中谷氏自ら、自戒の念を込めた懺悔の書であると銘打つ、真摯な思索の産物だ。借り物の経済学の知識を振り回している学者もどきが犇(ひし)めく日本の経済学者の中にあって、中谷巌氏は、宇沢弘文氏と共に自らの頭で考えることのできる稀有な存在だ。TVに出てはもっともらしいことをしゃべり散らしているエコノミスト、経済学者と称する連中の大半は、耳を傾けるに値しない、単なる口舌の徒である。

 現代の貧民(ポーパー)ともいうべきワーキング・プアは、経済的側面からいえば新自由主義の産物である。政治的には長年にわたる自民党政権の失政によるものであると同時に、その失政を容認してきた民主党の怠慢によるものだ。政権を奪取した今こそ、民主党はこの根本的な問題に取り組むべきにも拘らず、狡猾な小役人にかきまわされて右往左往の状態だ。マニュフェストで高らかに謳った公務員給与の2割削減でさえままならぬ状態である。
 役人達が自らの給与削減を自発的にやる訳がない。自分達の利益しか考えていない連中に、日本国という大所高所からの判断などできるはずがない。大震災、大津波さらには国民生活の基盤を破壊する原発の事故によって、これからの日本国家の方向性が大きく問われている今こそ、明快な国家理念を樹立し、果敢な政治決断を下すことのできる真の政治家の出番だ。選挙とか利権にウロチョロする政治屋、政治ブローカーは不要である。

 筆者がイメージしているワーキング・プア層の解消のプロセスは次の通り。
+国家公務員の人員の2割カット、残余8割の人件費の5割カット。
+地方公務員をはじめとする、パブリック・セクターに属する1,000万人の人員の2割カット、残余8割の人件費の5割カット。
+1.2.によって、年間60兆円の余剰資金が生ずる。
+3.によって生じた資金を、1,700万人のワーキング・プア層に優先的に配分する。
+仮に、1人200万円/年の配分がなされるとすれば、全体で34兆円/年。ワーキング・プア層は、160万円強の従来の収入に200万円がプラスされ、360万円強となり、ワーキング・プア層は消滅する。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“ACが嫌でNHKを見る” -東京、崩彦

(毎日新聞、平成23年4月30日付、仲畑流万能川柳より)

(このごろ巷(ちまた)で流行(はや)るもの。AC、政治屋、エセセレブ、タイコ持ちするエセ学者。)

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