脱税摘発の現場から-8

***8.脱税・冤罪事件の3つの原因(承前)

 前回、税理士制度について述べ、そこに2つのガンが巣食っていることを指摘した。税理士会への加入が強制されており、加入しない限り税理士の資格はあっても税理士業務は一切できないこと(強制入会制)、税理士業務は税理士の独占業務とされており、一般の人がたとえ無料で行なったとしても罰せられること(税理士業務の無償独占性)、この2つである。



 この2つのうち、とりわけ問題が大きいのは無償独占性だ。

 税理士業務は法律によって、

+税務代理

+税務書類の作成

+税務相談

の3つの事務に限定されており(税理士法第2条)、これらの事務を行なうことを業とするのが税理士であるとされている。

 「業とする」というからには、通常は有償が前提である。無料でサービスを提供しても「業」とは言わないのである。
 この点、無用の混乱を避けるために、弁護士法は「報酬を得る目的で」(弁護士法第72条)、公認会計士法は「報酬を得て」(公認会計士法第47条の2)と明記して、それぞれの独占業務の線引きをしている。つまり、弁護士とか公認会計士の業務は、一般の無資格者であっても報酬をもらわない限り、つまり無償でさえあれば、誰がやっても構わないということだ。弁護士の独占業務である法律事務であってもお金さえもらわなければ(無償)誰がやっても構わないし、公認会計士の監査でも同様である。考えるまでもなく当然のことだ。
 ところが税理士法では単に「業とする」という文言にとどめ、拡大解釈される余地を残したことからおかしなことになった。有料はもちろんのこと、無料であっても、税理士でない者は一切税理士事務をしてはいけないことにしてしまった。国税庁が、「業とするとは、税理士事務(税理士法第2条第一項一~三)を反履継続して行うことをいい、必ずしも有償であることを要しない」とする御用学者の見解と一部下級審判決に飛びついて内規として定め、いわゆるニセ税理士摘発の有力な武器にしているのである。
 ちなみに、ここでいう税理士とは、単に税理士となる資格を持っている者のことではない。税理士会に入会して税理士登録した者のことだ。従って、たとえば弁護士とか公認会計士は誰でも税理士となる資格を持っているのであるが、税理士会に入会して登録しない限り、税理士を名乗ることもできなければ、税理士の仕事もできないようになっている。強制入会制である。
 私がこの強制入会制が税理士制度における2つのガンの一つであると指摘したのは、入会する手続きとか、会員である税理士に対する懲戒手続きが極めて不透明であり、事実上税理士の生殺与奪の権を税理士会が握っているからだ。税理士会の中には多くの内規があるようであるが全くの秘密とされていて、税務当局、あるいは税理士会の気に入らない税理士がいれば、あれこれと言いがかりをつけて入会手続きを引き延ばしたり(「続・いじめの構図 -1」)、懲戒処分を平気で行なったりして税理士会からはじき出そうとしているのが現実である。
 先日も東京在住の税理士の方から信じられないようなお話をお聞きしたばかりである。東京税理士会が、およそ問題となりえないような些細なことがらに因縁をつけて、懲戒処分に及んだというのである。異端分子と勝手に決め付けて、村八分にするための嫌がらせである。先に、ゲー・ペー・ウー(秘密警察)と称したのはこのことだ。

 納税は、憲法で定められた国民の義務である。その義務を履行するのに一握りの税理士にしか頼ることができないようにしているのが、税理士業務の独占性であり、なかでも「無償独占性」だ。
 「業務独占性」のシバリがある以上、国民が憲法で定められている納税義務を履行するために、わざわざ税理士のところまで出向いて、しかも通常はお金を払ってまで相談をしたり、申告書を書いてもらわなければならないこと自体、考えてみればおかしなことだ。その上、税理士ではない人には、たとえ無償であったとしても税金のことについては一切頼ってはいけないとするに及んでは、何をか言わんやである。どのような屁理屈をつけても大義名分が立つはずのないものだ。
 税金問題に関心のある人達、たとえば税法学者、税法を勉強している学生、税金問題を追及しようとしているジャーナリスト、これらの人達が、納税者に会って直接話を聞くことができないのである。納税者に会って直接話を聞くことは、相談業務に該当するとされ、たとえ無償であっても刑事罰の対象とされるからだ。このことは税務事例の検討・研究が税理士以外は全くできないことを意味する。
 このために、税金の問題、ことに税務調査の問題が、一般の人達の議論になりにくくなっている。先に、税務行政における不正が、闇から闇に葬られていると言ったのはこのことである。

 私は、税理士の仕事は税理士だけの独占とすることなく、広く一般に開放し、無償の場合はもちろんのこと、有償であっても誰でもすることができるようにすべきであると考えている。税理士に、このような特権を認めているのは、世界広しといえども日本と韓国しかない。しかも、その韓国でさえ、有償だけに限定しており、日本のような無償独占性など認めていないのである。一握りの利権集団である税理士業界の権益を守るためのものでしかない税理士事務の独占性、なかでも無償独占性は、一般の納税者の視点からすれば、有害無益で一片の大義名分さえ見出し得ないシロモノであり、直ちに廃止すべきである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“遠目には地球も妻もきれいだな” -守山、みきをくん。

 

(毎日新聞、平成22年7月11日付、仲畑流万能川柳より)

(夜目、遠目、傘の下)

***【追記】
 国土交通省出雲河川事務所と、斐伊川治水事業の費用対効果(B/C)及びシミュレーションについて話し合いの機会を持つことになった。
-日時:平成22年8月30日(月)2:00PM~5:00PM
-場所:財団法人島根総合研究所(松江市東本町5丁目山根ビル1F)
-出席者(住民側):北川泉(財団法人島根総合研究所所長理事)、山根治(弊社主任コンサルタント、財団法人島根総合研究所理事長)他7人
-出席者(行政側):溝山勇(国土交通省中国整備局出雲河川事務所副所長)他3人
 これまで私達の呼びかけを無視して話し合いの機会を持とうとしなかった国土交通省であったが、民主党島根県連代表・小室寿明衆議院議員の斡旋により、ようやく実現したものである。

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