八ツ場(やんば)ダムの中止と税金ドロボー-2(承前)

3.八ツ場(やんば)ダムでは予算の70%がすでに使われたという。ここまで出来ているのに中止するのはおかしいではないかという声が、このところことさらに強調されているようだ。10月19日に現場視察を行った、関係する1都5県の知事の意見も同様であった。しかし、もともとの施策自体が間違ったものであり、事業継続の必要条件を満たさないから中止するのであって、予算の消化状況など基本的には関係ないことである。過(あやま)ちては改むるに憚ることなかれだ。実際の例としては、私達地域住民が反対の声を挙げて中止に追い込んだ「宍道湖・中海干拓淡水化事業」がある。(「亀井静香氏は守旧派か?-1」、「亀井静香氏は守旧派か?-2」参照)

 この馬鹿げた干拓・淡水化事業は、事業自体(予算の消化ではなく)が90%完了していたものである。本来の事業目的が無意味となり、かつ、環境に多大な悪影響を及ぼすことが明らかにされたことから中止に至った。この時も推進一辺倒の島根県・松江市当局と農水省は、『この事業は地域の発展には不可欠のものだ、淡水化しても水が汚れることはない、中止になったら県は多額の財政負担に耐えられない、あるいは、中止したら地域経済がダメになる』などといった、あからさまなウソをついては抵抗していたが、所詮タメにする推進理由でしかなかった。ウソがバレバレの、税金ドロボーの屁理屈である。

4.八ツ場ダムについても、地元の知事をはじめ、町長とか地方議会の議員、あるいは一部の地元の住民が、中止されては困るといって猛反対しているようであるが筋違いである。ことは一国の政策の誤り、即ち不法な税金の使われ方を正すことに眼目があるのであって、決して一地方だけの問題ではない。この人達は国全体の問題、つまり、国民が納めた血税の公正な使われ方の問題であることを改めて認識すべきである。八ツ場ダムの予定地である長野原町役場には、あくまでも建設推進を求めていることに対して批判のメールや電話が殺到しているという。国民の立場からすれば当然の抗議であり、町当局としては、地元だけが悪者にされているとか、あるいは中傷されているといった被害者意識一辺倒の受け取り方はすべきでない。被害者であると同時に、加害者の一翼を担っていたからだ。知ってか知らずか、税金ドロボーに加担していたということだ。
 また、群馬、埼玉、東京、千葉の知事が中止の撤回を求め、撤回ができなければ、これまで支払ってきた負担金を返せと言って喚いている。法の整備さえできれば、国としては返せばいいのである。国と地方自治体は国家財政の上からは一体のものであることを考えれば、支払った、受け取ったといっても、プラスマイナスゼロになる筋合のものだ。国民の負担が増える訳ではないのである。更に言えば、国としてはそれぞれの県(都)への分配金(予算)を、返した分だけどこかで減らせばいいだけのことだ。

(この項つづく)

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 ここで万葉の歌を一首。

“吾妹子(わぎもこ)が 見し鞆(とも)の浦の むろの木は 常世(とこよ)にあれど 見し人ぞなき” -(大伴旅人、446)
(吾妹子之 見師鞆浦之 天木香樹者 常世有跡 見之人曽奈吉)

(鞆の浦の埋め立てよりも景観保全に軍配をあげた、広島地裁の画期的な判決(平成21年10月1日)。架橋工事反対派の方々と共に喜びたい。天平2年(730年)、妻を亡くした大宰帥(だざいのそち)大伴旅人が奈良の都への途次立ち寄った鞆の浦。妻を偲ぶ縁(よすが)とした天木香樹(むろの木)は、古来霊木として名高い。この霊木が貴重な海を守ったのであろうか。)

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