ライブドア監査人の逮捕 3

 その著書の中で、なんともカッコよく、会計士を廃業すると大ミエを切っていた田中慎一会計士に対して、なんとなく胡散(うさん)臭いものを感じ取ったのは、前回述べたように、自らが逮捕されるかどうかの危機的状況の中とはいえ、他の関係人の迷惑をもかえりみずに、もっぱら検察の言いなりになってインチキのシナリオであっても全面的に協力すると、アッケラカンと公言していたからでした。

 そこに、田中会計士逮捕の報道がなされ、肩書が「公認会計士」のままになっていましたので、違和感がよみがえることとなり、不審に思うに至ったのです。

 ここで考えることの出来るケースは次の3つです。
 一つは、大阪府警のプレス発表が誤っているか、あるいはマスコミが誤って報道しているケースです。これについては、日本経済新聞をはじめ、毎日、朝日、読売、産経と主要各紙に眼を通してみましたが、全て「公認会計士」となっており、「元」がついていませんでした。これで、このケースの可能性はほとんどないことが分かりました。
 二つ目は、宣言していた通り、一度は廃業(登録の抹消)をしたものの、逮捕、訴追のおそれがなくなったために、再び登録をしたケースです。このことを確認するために私は、数年にわたる会計士名簿をチェックし、会計士協会が出しているニュース・レターをチェックしてみました。その結果分ったのは、田中慎一氏の会計士登録は、1998年に登録されてから一度も異動がないことでした。登録番号が変っていないからです。したがって、
 三つ目のケースとして考えられることは、田中会計士が「港陽監査法人の解散と同時に、会計士の資格を返上する」と言っていたことは偽りであり、もともと会計士を辞めることなど本気で考えてはいなかったのではないかということです。

 この事実によって、田中慎一氏が検察当局に全面協力するだけでは足りないと考え、会計士廃業の意思を表明して恭順の意を示し、検面調書(検察官面前作成調書のことです)に記録してもらっただけでなく、自らの著書において天下に公表したのは、逮捕、訴追をのがれるための、その場しのぎの方便ではなかったか、という疑念が生じてきます。
 あるいは、一度は会計士を辞めようと決意はしたものの、その後何か特別な事情でも生じて辞めようにも辞めることができなくなったことも考えられます。これは、田中氏本人のみぞ知ることで、第三者である私がとやかく論評すべきことではないかもしれません。

 尚、最近、これと似たような行動をとった弁護士がいます。住専にからむ事件で、捜査当局に恭順の意を表し、逮捕訴追を免れるためになされたと言われている、中坊公平氏の弁護士登録の抹消事案です。その後、2007年3月22日、中坊氏は、大阪弁護士会に対して入会申込書と弁護士登録請求書を提出したのですが、同年7月5日、自ら登録請求を取り下げ、弁護士会への再登録を断念しています。その間、どのような事情があったのかは知る由もありません。田中慎一氏にしても、中坊公平氏にしても、登録を抹消するかしないかはそれぞれの生きざまの問題ですので、他人がその是非についてとやかく言うべきことではないでしょう。ただ、その人のその他の言動を評価する際に、少なからぬ影響を与えることは否めないところです。

 田中慎一会計士の登録状況を調べていたところ、この人物に関して、日本公認会計士協会から懲戒処分のプレスリリースがなされていることが分かりました。昨年の11月30日付でなされているもので、田中氏が出版した「ライブドア監査人の告白」に関するものでした。
 田中氏が監査業務によって知ることのできたライブドアの秘密を本の中で詳述していることが、会計士の守秘義務に違反しているのではないかという点と、ライブドアが利用したファンドスキーム(ファンドのしくみのことです)の解明に当たり、公認会計士として本来行ってはならない「盗み見」行為をしたことを公表した点について、問題視されたものです。
 第一の点については、昨年、この「山根治blog」で、

“読んで驚きましたね。この本の中には当事者しか知りえない秘密事項が至るところで顔を出しており、公認会計士法第27条の守秘義務に抵触するのではないか、と別のことを心配しながら読み終えた覚えがあります。”(“ホリエモンの弁解術-3”)

と述べ、指摘したところです。
 第二の「盗み見」行為については、かつての自民党副総裁であった金丸信氏が脱税行為で摘発される端緒となったマル秘メモのことを思い出しました。金丸氏担当の銀行マンが作成していたこのメモの存在が、金丸信氏の政治生命を絶ったばかりか、長い間与野党なれあいで進んできたいわゆる「55年政治体制」を崩壊に導いたとも言われているものです。
 このメモを東京国税局の査察(マルサのことです)が手に入れるのですが、この手段は「盗み見」ならぬ「窃盗」行為そのものでした。この犯罪行為としての違法な税務調査については、“疑惑のフジテレビ -号外2”でその概略を述べています。
 日本公認会計士協会は、この2つの点について、公認会計士としての信用を失墜させたものと認定して、田中慎一氏を懲戒処分に付したものです。

【付記】
 大阪地検は、平成20年3月6日、田中慎一氏を起訴猶予(きそゆうよ。性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況により、訴追を必要としない場合に、検察官が公訴を提起しないこと-広辞苑。)処分としています。

“同容疑で逮捕した元港陽監査法人(2006年解散)の公認会計士(36)は「関与の度合いが低い」として起訴猶予とした”(日本経済新聞、平成20年3月7日付)。

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 ここで一句。

“今誰か 手が触れたなら 負けちゃいそ” -桜井、花咲オババ。

 

(毎日新聞、平成20年1月18日号より)

(いくつになっても人生だ、枯木にだって花は咲く。)

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