あの人はいま? -1

 4年前、つまり平成15年10月4日に、私は会計士と税理士の登録を抹消せざるを得なくなりました。平成8年1月26日に全く身に覚えのないことで逮捕されて以来、延々と7年半もの間刑事裁判を闘い、主要な事件(マルサ事案)については無罪をかちとったものの、オマケのようにくっつけられた別件については、執行猶予付きながらも有罪が確定したからです。3年間は会計士の仕事も税理士の仕事もできなくなった訳です。



 知り合いのK公認会計士に、私の仕事を全てお任せいたしましたので、その分、気持の上でも、時間の上でも余裕が生じることになりました。そこで、私に振りかかってきた災難とは一体どのようなものであったのか、総括して検証することにいたしました。逮捕のキッカケになったのが、平成5年9月28日の広島国税局の査察(俗にいうマルサです)による強制調査でしたので、

   平成5年9月28日から

   平成15年10月4日までの

10年間について、私の身に起ったことを洗いざらい俎上(そじょう)に載せ、順を追って整理することにしたのです。3ヶ月程かけて出来上がったのが、『冤罪を創る人々』です。

 公職にありながら、犯罪をデッチ上げた人達を私は非行公務員と呼び、敢えて実名で公表することにしました。私の事件を捏造した非行公務員の数は、ゆうに100人を超えるものではありますが、その中から主な役割を演じた非行役人として、
   国税当局から 15人
   検察当局から 15人
の合計30人を選び、この人達がどのようなことを行ない、組織としてデッチ上げをした中でどのような役割を果したのか具体的に明らかにいたしました。
 この30人の人達のほとんどが、私よりも若く、現時点では一人として死亡してはいないようですので、今の時点でどこでどのような仕事をしているのか追跡してみることにしました。「あの人はいま?」と題した所以(ゆえん)です。

 まず、国税当局について言えば、マルサ関連の主要人物7人、その他マルサ関連6人、国税局及び国税庁関連2人の計15人。
 以下、15人の非行役人を列挙し、当時の役職等と現況について記します。

***1.大木 洋(おおぎひろし)氏。
 広島国税局調査査察部査察第三部門統括国税査察官。マルサの現場の統括司令官。デッチ上げ事件の張本人。ノンキャリアのポストとしては最高位とされている同局調査査察部長を最後に退官し、平成14年、税理士登録。現在は広島市で税理士法人を設立し、その代表社員となっている。TKC全国会会員。株式会社青山商事(東証一部)監査役等。

***2.藤原 孝行(ふじはらたかゆき)氏。
 広島国税局調査査察部査察第三部門統括国税査察官。大木洋氏の部下。大木氏の指示のもと、私の取調べを担当。収税官吏として、平成8年3月6日松江地方検察庁へのデッチ上げの告発書類を作成した人物。現在は、福山税務署、筆頭特別調査官(法人税等)。

***3.新本 修司(しんもとしゅうじ)氏。
 広島国税局調査査察部査察第三部門査察官。藤原孝行氏の補佐役。大木氏の指示のもと、藤原氏と二人で私の取調べを担当。現在は、海田税務署、個人課税総括上席調査官。

***4.松田 憲磨(まつだのりま)氏。
 広島国税局調査査察部統括国税査察官。大木洋氏と共にインチキシナリオを創り上げた人物。ガサ入れ時の組合関連の捜査責任者。検察庁へのインチキの告発書類を、査察管理課長として決裁した人物。平成12年、税理士登録。現在は下関市で税理士事務所をかまえている。

***5.永田 嘉輝(ながたよしてる)氏。
 大木洋氏の後任として、捏造事件を引き継ぐ。広島国税局調査査察部査察第三部門統括国税査察官として、検察庁への偽りの告発書類を決裁した人物。平成15年、税理士登録。現在は岡山市で税理士事務所をかまえている。

***6.三瀧 恒雄(みたきつねお)氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門統括国税査察官。平成13年、税理士登録。現在は広島市で税理士事務所を開設している。TKC全国会会員。

***7.前原 非利(まえはらひとし)氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門統括主査。平成8年、税理士登録。現在は広島市で税理士事務所を開設している。

***8.中村 真一(なかむらしんいち)氏。
 広島国税局調査査察部査察第三部門統括主査。現在は、広島国税局調査査察部査察第三部門統括査察官。

***9.黒目 啓治(くろめけいじ)氏。
 広島国税局調査査察部査察第二部門査察官。現在は、厚狭税務署、総務課長。

***10.吉年 聖行氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門査察官。現在は、広島国税局調査査察部査察第四部門主査。

***11.奥村 薫氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門査察官。現在は、岡山東税務署、法人課税第二部門上席調査官。

***12.小浜 稔氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門査察官。現在は、福山税務署、税務広報広聴官。

***13.田村 友治氏。
 広島国税局調査査察部査察第四部門査察官。現在は、玉野税務署、総務課長。

***14.志田 康雄氏。
 広島国税局長。現在は、株式会社整理回収機構副社長。

***15.石井 道遠氏。
 国税庁調査査察部査察課長。現在は、財務総合政策研究所所長。

 以上15名のうち、いまだ税務職員等として公職にある者9名、退官者は6名、退官後税理士登録をしている人物(全てノンキャリア)は5名、政府系会社に天下りした人物(キャリア)は1名。税理士登録者5名のうち2名はTKC全国会会員となっています。

 付言。TKC全国会の気恥ずかしくなるようなド派手なTV・CM。公共性があるとして無償独占性(有料はもちろんのこと、無料で税金の相談をしたり申告書を作成したりすることも税理士の独占業務とし、一般人に禁じられていること)が与えられている税理士業務の宣伝としては、なんだかヘンな感じがしますね。その上に『電子申告は私達におまかせ下さい!』なんて、一体何を考えているんでしょうね。
 e-Tax(電子申告)はもともと納税者が自分で手軽に納税手続きができるようにと考えられたもの。現実にはその使い勝手が悪いために、高い手数料を払って専門家に頼まざるを得ないというのも、どこかヘンですね。何のためのe-Taxでしょうか。このe-Tax、わざわざ使い勝手が悪くしてあるとも言えるシロモノで、国税OB(ほとんどがフリーパスのような状態で税理士になることができます。上記の退職した非行公務員(ノンキャリア)の全てが税理士になっています。)の失業対策だったりして。だとすれば、納税者こそいい迷惑ですね。ちなみに、税理士業務は、準委任にもとづく事務ですので、原則無償とされています(民法648条、656条)。つまり、特約がない限り、お金をとることはできないということです。公共性をうたっている税理士業務ですから尚更のことです。それを営利事業のように、笛や太鼓で宣伝したりして、メンバーの人達は恥ずかしくないのでしょうか。

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 ここで一句。

“さっきまで天使だったという悪魔” -相模原、水野タケシ

 

(毎日新聞、平成19年10月8日号より)

(天使のごとき乙女子が何故か眼(まなこ)がつり上がり口まで裂けて…。)

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