投資ジャーナル事件の真相 -3

翌年、姿を隠していた中江滋樹氏が警視庁に出頭する直前に、氏についての記事を再度公表しました。前回と同様、「明窓閑話」のコラム欄においてです。以下、山陰経済ウイークリーの昭和60年5月14日号から転載いたします。「明窓閑話」190回目の記事であり、私はこの記事をもってこのコラム欄を閉じることにしました。「休むも相場なり」と気取ってはみたのですが、実のところマスメディアのいいかげんさに嫌気がさしてきたというのが本音でした。

地方新聞社が発行している週刊誌とはいえマスメディアの一角を占めているわけで、署名入りの記事を書くのがいやになったのです。

***「休むも相場なり」

投資ジャーナルグループが証券取引法違反容疑で警視庁の手入れを受けてから九ヵ月が経過した。
その間、マスコミはこぞって中江滋樹会長をペテン師呼ばわりし、歌手の倉田まり子さんを愛人と決めつけて血祭りにあげた。
投資ジャーナルの元幹部とか称する多くの人物が、マスコミに登場してはさも事実であるかのように、あることないことを述べたてた。

ある弁護士の一団は、被害者救済という錦の御旗をかかげ、正義の味方月光仮面よろしくさっそうとマスコミに登場しては、憶測による中江会長非難を繰りかえした。
倒産評論家と自称するS氏、および株式評論家を自称するK氏は、ストーリーテラーとして抜群の才能を発揮し、見事なまでに白を黒と言い切った。

その結果、どうであったか。

まず警視庁。証取法違反ということで手入れをし、最終的には詐欺で立件しようとしているようであるが、無理ではないか。仮に、警視庁がメンツにこだわり詐欺というハレンチ罪で立件するならば、私は弁護団の一角に加わり、詐欺でないことの立証に全力を挙げるつもりである。

次に倉田まり子さん。中江会長から“わいの最後の道楽や”とかで七千万円の贈与を受け、豪邸を購入したといわれてマスコミから袋だたきにあってきたが、この三月末、彼女が真実を告白し、私が彼女の告白を補充するために、テレビは一局、週刊誌は一誌に限りインタビューに応じたことにより、空さわぎはおさまった。
もともと七千万円の件は疑惑でもなんでもないことなので、真相がわかってしまえば面白くもおかしくもないことになってしまって、テレビ的にいえば、絵にならなくなったのである。
経済とか法律にうといワイドショーのキャスターとか芸能レポーターが、株の世界にまで首を突っこもうとしたところに無理があったのではないか。

三番目に弁護士の諸君。この三月の末、倉田まり子さんを脱税容疑で、中江滋樹氏以下数人を詐欺容疑で、マスコミをフルに利用して鳴り物入りで東京地検に告発したが、アッサリと門前払いを食わされた。
彼らは、“被害者”から数千万円の手数料(一説には億に近いとも超えたともいわれている)を受け取り、まさにビジネスとして行動しているだけであり、マスコミが踊らされているといってもいいだろう。
冷静になって考えてみれば、被害者といっても自分達でそう思っているだけのことで、世上無数にある倒産劇の債権者と何ら変わるところがない。
弁護士の諸君は、マスコミによって虚名を得、かつ被害者からは多額の報酬を手にしたわけであるが、自らの組織を運用するためのランニングコストは想像以上に多額にのぼっているはずであろうから、軍資金は、そう遠くない将来に枯渇するのではないか。更にまた、彼らはマスコミを甘く見すぎているのではないか。少しずつ風向きが変わってきたことを肌で感じているに違いない。

さて最後に、内情を暴露したとされている自称元幹部と自称評論家。彼らもまたマスコミによって虚名と多額の報酬を受け取った。
ウソがウソのまま通ってしまうほど、今のマスコミはバカではない。彼らはいずれ、しかるべき制裁を自らが利用しようとしたマスコミによって受けることになるだろう。

中江滋樹氏は現在にいたるも表に出てこない。
中江氏は、何故、早く自ら出て釈明しないのか、とよくいわれる。私は氏の真意を知る由もないが、株の世界における一つの諺が脳裡をよぎった ― 「休むも相場なり」。

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ここで一句。

“政界にいらざる鳥はタカ・スズメ 九官鳥にウソ・ブッポウソウ” -大阪府池田市、医師岡崎欣一、77歳。

 

(朝日新聞:平成17年12月6日号“声”欄より)

(鳥類譜と自評。政界のかわりにマスコミとしてもピッタリ。嗚呼、十年、いやニ十年一日の如し。)

 

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