B02 マッチポンプ 2

***(2)事前通知

社長室の電話が鳴った。

「A税務署ですが、明日税務調査に行くことにしましたのでよろしく。経理担当者だけでなく、社長も会社の中にいるように。顧問税理士のB先生にはこちらから連絡しないから、アンタの方から電話しておいてください。」

横柄きわまりない架電は、一方的にまくしたてられて、切れてしまった。

C建設株式会社。資本金5千万円、従業員100人余り、年間の完成工事高50億円程度。官公庁工事もかなりこなしている中堅どころである。
社長D氏、52才。かつて会社の裏金が税務調査で発覚し、徹底的に絞られ、胃に穴の開く思いをして以来、いわば税務署アレルギーに陥っている。
税務署と聞いただけでドキンとし、税務調査などと言われようものなら、ウロウロ、ソワソワと腰が落ち着かない。事業にかけては凄腕をもって鳴るD氏、税務署だけは苦手とみえて、塩を振りかけられたナメクジのようになってしまうのである。

かつて民社党の名物男春日一幸氏が、「税務署の奴らなんか石をもってぶち殺してしまえ。」とやって、商売人から熱烈な喝采を博したことがあったが、D氏に似たような人が予想外に多いことを物語る。
明日税務署が来る、さあ大変だ、とばかりに、D社長はB顧問税理士に電話をかけ調査の立会いを依頼した。

 

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