ゴーイング・コンサ-ンの幻想-1 西武鉄道

平成16年10月13日、テレビ各社は西武鉄道グループのオーナー経営者である堤義明さんがグループ各社の全役職を辞任し、経営の第一線から身を引くことを一斉に報道しました。驚きましたね。

 翌10月14日、新聞各社はより詳しく辞任の背景を説明していましたので、目を皿のようにして読んでみました。またまた驚きましたね。

 上場会社である西武鉄道が作成していた有価証券報告書に誤りがあったために(虚偽記載か?)訂正し、その責任を取ったというのです。



 西武鉄道の筆頭株主である(株)コクド(未公開会社)を、株式の43.16%を保有する“関連会社”であると公表していたのを、64.83%を保有する“親会社”に訂正したというんですね。

 更に、(株)コクドの100%子会社である(株)プリンスホテルの持株比率を0.98%から4.20%に訂正しています。

 この結果、(株)コクド、(株)プリンスホテルを含む大株主上位10社の保有比率が88.57%になり、「特定少数者の比率が80%を超えた場合」と定めた上場廃止基準に触れることになり、東京証券取引所は10月13日付で西武鉄道株を監理ポストに移し、真相究明のための調査を開始。

 現在は、(株)コクドの持株を第三者に譲渡することによって、10社合計が80%を切り、74.9%となっているようです。ただ、長い間80%を超えた状態が続いていたようですし、特に平成12年3月期末と同13年3月期末には、それぞれ91.19%、90.64%と90%を超えており、上位10社の持株が90%を超えた場合には、猶予期間を置かずに上場廃止にすると定めた基準に触れています。今後の調査次第では上場廃止になるかもしれません。



 以上が各メディアが報じた大要ですが、私が本当にびっくりしたのは、「@堤義明@」さんが記者会見で話した内容でした。なんてことを言うんだ、といった感じでしたね。“昔から続けていたことで、法律が変ったことに気がつかなかったというボケた話で、…悪意を持ってやったことではない。西武鉄道の株価は中身と比べて安すぎると考えている。解散しても(一株当たりの資産価値は)もっと高い。上場廃止になっても損をしたということにはならないのではないか。そもそもなぜ西武鉄道を上場しなければならなかったのか私にはわからない。”(日本経済新聞、平成16年10月14日付)

 まず、前段について。このたび訂正された株式が2社合わせて、24.89%と、西武鉄道の発行済株式の実に4分の1にも達するもので、株数にして1億株を超えるものです。しかも、5億円を超える配当金が毎期この2社にまとめて払い込まれていたというのです。ついうっかり忘れていたとか、法律が変ったことに気がつかなかったとかで通る話でしょうか。堤さんは、“ボケた話で”などと、トボケているようですが、さて。

 次に、後段について。堤さんは仮に上場廃止になっても、決して株主に迷惑をかけることはないと開き直っているようです。本当でしょうか。私には堤さんがネボケたことを言っているように思えてなりません。

 そこで、西武鉄道の財務諸表(平成16年3月期)を調べてみました。

 総資産は一応9,765億円となっていますが、これはあくまでも、会社が継続していく(ゴーイング・コンサーン)という前提で計算されたもので、しかも会社の実態を必ずしも正確に反映するとは言い難い現在の会計基準によっていますので、上場廃止→解散という前提に立って大雑把に洗い直してみます。

 すると、まず前払費用とか繰延税金資産といったもともと資産価値のないものが合計で257億円もありますので、まずそれを差し引きます。

 次に関連会社に対する債権とか株式が合わせて1,834億円あり、各関係会社の業態はあまり芳しくないようですので、少なくとも3分の1の評価減(611億円)は必要でしょう。既に33億円程の引当金がありますので、引当不足として611億円マイナス33億円の578億円を差し引きます。

 主な資産である鉄道事業等の固定資産の評価はそのままとしても、総資産は9,765億円から257億円と578億円とを合わせた835億円を差し引いた8,930億円となります。

 一方負債の方は9,282億円となっていますが、この中には債務ではない準備金が227億円含まれていますので、これを差し引いて計算しますと、9,055億円となります。

 すると、取り合えず洗い直した資産8,930億円から、負債9,055億円を差し引くと125億円の欠損ということになり、株主資本(純資産)はマイナスになります。

 公表されている株主資本は、プラス482億円ですが、ゴーイング・コンサーンという幻想を取り払ってみただけでも、607億円もの評価減等が考えられ、一転してマイナスの125億円に転じてしまうのです。このことは、4億3千万株強発行されている西武鉄道の株式が単なる紙切れになってしまうことを意味しています。

西武鉄道株式会社 決算短信・開示情報

http://www.seibu-group.co.jp/railways/kouhou/kessan/

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 ここで一句。
“オーナーと言っているけどサラリーマン” -八王子、寝太郎(毎日新聞:平成16年10月4日号より)



(プロ球団のオーナーと称する人達はほとんどがオーナーもどきのサラリーマンのようです。堤さんだけは西武グループの総帥として揺るぎない経営体をバックにした真のオーナーだと思っていたんですが。) 

 

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