月給一億円のサラリーマン

私は、中江滋樹氏を通じて、株の世界の実際をつぶさに見ることができましたし、仕手筋と言われる相場師とか、証券外務員という名の歩合制の勝負師とも親しく付き合うことができました。

 ケタ外れの金額が毎日のように動き回る相場の世界は、私のように自ら相場を張ることのない、いわば傍観者からすれば、実に面白い世界でした。



 中江氏の周りには、金の亡者のような人達が群っており、他では見ることのできない人間模様が展開されていました。金銭に敏感なかなり多くの政治家が、現ナマのエサにつられて中江氏の意のままに動いて、大口顧客の紹介をしたり、相場の形成に一役買っていました。一人一回について一本(1000万円)が渡されていたようです。私の知っているだけでも20人を超える国会議員が中江氏の手先となって動いていました。

 いわゆる井戸塀(政界に乗り出して私財を失い、井戸と塀しか残らない)政治家などいるはずもなく、表向きは立派なことを言ってはいても、こと現ナマともなると眼の色が変わってしまう人達を間近に見ることができました。



 中江氏の縁で知り合った人達の中でも特に私に強いインパクトを与えたのは、証券外務員のK.Y氏でした。

 K.Y氏は出会った当時40歳の前半で、エネルギーの塊のような人物でした。K.Y氏は株の世界ではかなり名が通っており、相方であるK.G氏と組んで相場を張っていましたので、株式市場では「KK軍団」と畏敬の念を込めて呼ばれていました。

 彼はまた、月に一億円程の稼ぎがあり、日本一の給料取りの異名も持っていました。身長、体重は、それぞれ180cm、90kgを超える堂々たる体躯の持ち主で、まさに偉丈夫という名がピッタリの人物でした。オットセイよりは大きい、トドといったところでしょう。



 8人の女性に子供を産ませ、それぞれに一軒家を与え、月に50万円の生活費を渡している、-初対面の時の話題からして誠に破天荒なものでした。5人や10人の女性と付き合っている人は、さほど珍しくもないのですが、8人全部に家を与え、子供まで生ませ、当時としては少なからぬ生活費を渡しているのですから、脱帽するほかありませんでした。

 一人の女性だけでも息切れがし、持て余してしまう私のような普通の男には、K.Y氏はまさに神様のように思えましたね。子供まで生ませた8人の女性をキチッとコントロールしていくことは、金さえあればできるというものではなく、男の器量が不可欠なのでしょう。



 一日1000mの水泳をし、サウナに入り、牛の生肉をしっかり食って、毎日8人の女性の家にかわるがわる行き、一人ずつ相手にしている、-これが体調と仕事を維持する秘訣であると淡々と言ってのけたのには、ひたすら御説拝聴とばかりに聞き入るほかありませんでした。

 最近久しぶりに、K.Y氏と東京で飯を食い一杯やったのですが、とても60歳の後半の人物とは思えませんでした。今でも一日にプールで1000m泳ぎ、牛の生肉を必ず食べているそうです。ただ、女性に関する感想が若い頃とは少し違っていました、-



“女は年をとると、グチとシワが多くなる。”



 K.Y氏だからこそ、このような言葉が生々と躍動するのでしょうね。



 K.Y氏は偉丈夫であると同時に快男児であり、まさに小説の中から抜け出してきたような人物でした。事実、何人かの作家が彼に興味を抱き、彼をモデルとした小説をものにしています。



「清水一行とか黒岩重吾なんかが、急に親しそうに近づいてきて、オレにメシを食わせたり、飲ませたりするんだよね。ヤバイ筋の連中ではないんで、オレもいい気になって飲んだり食ったりしてたんだよ。後で気が付いたんだが、オレのことをダシにしていくつか作品を書き上げて、しっかり元をとっていたようだね。一つの作品など映画にもなって、田宮二郎がオレの役をやっていたよ。」



 豪快な愛すべき人物であり、女性のみならず男性をも引きつけてやまないフェロモンの持主ではあるものの、かつての田宮二郎ほどの二枚目ではないようです。



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仲畑流万能川柳より。
“目に浮かぶ0を数える橋本氏” -船橋、異語僧(毎日新聞:平成16年8月23日号より)



(日本歯科医師会から1億円の裏献金を小切手で受取ったと報じられた橋本龍太郎氏が、記者団の質問責めにあって、苦虫をかみつぶしたような顔をして発した一言、-“記憶にありません”)



 ついでにもう一句。
“さて次に記憶失う議員誰” -東松山、きみちゃん(毎日新聞:平成16年8月23日号より)

 

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