024 抗議書(国税庁長官宛)

****10)抗議書(国税庁長官宛)

 平成6年2月10日、岩本久人参議院議員から、査察課長の石井道遠に手渡された国税庁長官宛の抗議書の全文をここに掲げる、 ―


抗議書



 国税庁長官 濱本英輔殿



一、 私は、現在、広島国税局査察第三部門によって、国税犯則取締法による調査を受けております。平成2年9月28日の臨検捜索から4ヵ月が経過いたしました。私と多くの関係者が、まったく身に覚えのない脱税という破廉恥な嫌疑を受け、言葉には言い尽せない苦しみを味わってまいりました。この一連の強制調査において、不当かつ違法な取り調べがなされていると思われますので、ここに事実を記し、抗議をするとともに当局の見解を求めるものであります。



二、 まず第一に申し上げたいのは、広島国税局査察部は、誤った先入観を持って、架空の脱税事件を創り上げ、私および関係者を脱税の罪で告発しようとしていることであります。

 調査担当の藤原孝行氏は、『自分の仕事は山根を告発することである。告発した後、検察でも同じような事情聴取が行われることになる。裁判所に起訴するかどうかは、検察官の判断になるだろう』と申し述べ、何が何でも告発だけはする姿勢をとっております。



三、 私は、平成5年9月28日の臨検捜査日より4日間にわたって、松江税務署に呼び付けられ、大木洋、藤原孝行、新本修司の3名より尋問を受け、私が、臨検捜索令状に示されている脱税の嫌疑とされていることは、すべて事実に反することであると、具体的事実を申し述べて説明をしても、まったく耳を傾けようとせず、鼻先であしらう扱いをいたしました。



四、 なかでも、嫌疑とされている事実が二つの確定判決(松江地裁平成三年(ワ)第116号賃料請求事件および千葉地裁平成三年(ワ)第879号株主権確認等請求事件)によって明確に否定されていることを申し述べ、その上、平成2年8月5日、この事実に関連して、虚偽の申出を国税当局にしている人物から恐喝を受けた事実を強調したことをも全く無視をして、国税当局が勝手に創り上げたシナリオを強引に押し通そうとしています。



五、 尚、この恐喝事件に関しては、すでに平成6年2月7日、東京地方検察庁に対して告訴をいたしました。この恐喝の事実と、私が脱税の嫌疑を受けている脱税の嫌疑とは、全く矛盾するものであることを申し添えておきます。

 平成5年11月25日、再度、松江税務署の取り調べ室に呼び付けられ、藤原孝行、新本修司の2名より尋問を受けた際も、同じような状況でありました。その後、藤原孝行氏の要請により、私は事実経過を詳細に記した申述書を3通作成して、身の潔白を証明したところでありますが、何が何でも告発だけはするという姿勢を崩していないようであります。



六、 昨年12月24日、東京国税局のロビーで、一人の男性が刃物を胸に突き刺して、自殺をいたしました。その人物が携えていた遺書には、国税当局への恨みが綿々と綴られていたそうであります。この男性が社長をしていたハニックス工業は、東京国税局査察部によって、脱税のかどで東京地検に告発され、その告発の事実が公表され、マスコミによって報道されるや、同社の社会的信用は失墜し、報道後わずか4日にして会社更生法を申請して倒産するに至り、同年12月20日破産宣告が出ているようであります。



七、 このように、検察が告発を受理するかどうか、あるいは受理をして、起訴するかどうか、さらに起訴がなされて有罪になるかどうかに関係なく、単に国税局が検察に告発をするという事実だけで、企業の社会的生命は終わることがあるわけであります。

 私の場合もまったく同様で、このようないわれのない嫌疑によって、告発され、それが報道されただけで、私が20年近くをかけて営々として築き上げてきた会計事務所は、一瞬のうちに崩壊し、私の公認会計士としての生命は終わるわけであります。



八、 何が何でも告発だけはする、とされたのではたまったものではなく、私は二つの確定判決及び刑事告訴をした恐喝事件を含めた数多くの事実を持って反論しているわけでありますから、査察に着手した以上メンツにかけてでも、何が何でも告発だけはするといった頑な態度をとっている国税当局に対して、強く抗議するものであり、当局の見解を求めるものであります。



九、 証拠として、すでに私が数多くの資料を提供しているわけでありますから、そのようなことがまったく無視されて、告発されるに到り、私の事務所が致命的な打撃を受け、私の会計士生命が事実上終わるとするならば、国税当局ならびに大木洋氏ほか担当者個人はどのような責任をとるつもりでしょうか。当局の見解を求めます。



一〇、さらに、調査の方法に関して、私には到底納得できない点がありますので、以下、その事実を記し、国税当局の見解を求めるものであります。

 

一一、まず第一に申し上げたいのは、初めから犯罪人と決め付けて調査を行っている点であります。平成5年9月28日、松江税務署の取り調べ室における私に対する尋問の中で、大木洋氏は、「自分も山根と同じように松江市出身である。松江は本当にいい街で、悪人が出るはずがないんだけどな」と放言し、顔を歪めて私を憎々しげに睨みつけたのであります。私は初対面の一公務員から、全人格を否定されるに等しい悪人呼ばわりをされる覚えはありません



一二、また、臨検捜索の際、私の取引先である金融機関、証券会社等に赴いた査察官は、『山根とグルになっているんだろう。山根の偽名か仮名の口座があるはずだ。ウソを言ったら承知しない。お前も検察にしょっぴいてやる。』とまさに暴力団顔負けの言辞を弄し、侮辱すると同時に脅迫したようであります。この言辞も、私を犯罪人と決めつけていることが前提となっています



一三、このように、一方的に収集した誤った情報をもとに、勝手に脱税という嫌疑を創り上げ、私を悪人扱いにして、調査に臨んでいるのであります。国犯法にもとづく強制調査において、このようなことが認められているのかどうか、国税当局の見解を求めます。



一四、次に申し上げたいのは、脱税の嫌疑以外の余罪について追求し、余罪についても告発することをちらつかせながら、調査を行っている点であります。

 同年9月29日、2日目の尋問の冒頭で、私は、私以外の関係者に対する尋問の中で、仮装の余罪を追求して脅迫し、脅し上げた担当者のいることを、関係者からの電話連絡で知るに至りましたので、強く抗議したところ、大木氏は別室におもむき、益田の査察担当者に電話で問い質したうえで、松江税務署の取り調べ室に帰って来て、私に対して、『余罪を追求し、告発するのは、公務員としての義務であり、刑事訴訟法に規定されていることで、当然のことである。税金のことだけじゃなくて、その他の余罪の追求もキチンとしておかなければ、検察に送った場合、自分たちは検事に叱られることになる。』と明言したのであります。



一五、これについての、国税当局の見解をお聞きしたいと存じます。仮に、大木洋氏の言うように、余罪を追求して告発するのが、税務当局の義務であるとするならば、このたびの査察において、私と組合とを脱税の罪に陥れるために虚偽の申し出をしている佐原良夫という人物が、3年あまり前、福谷常男弁護士、吉川春樹と共謀して、このたび脱税の嫌疑ありとされた事実に密接に関連する点で、私を恐喝した事実が存在し、私は先に申し述べましたように、すでに正式に刑事告訴をいたしましたが、その詳細な事実を、証拠をそえて広島国税局にすでにお示しいたしておりますので、国税当局とされましても佐原良夫の余罪である恐喝に関して追求し、告発の手続きをとっていただきたいと存じます。



一六、最後に申し上げたいのは、尋問者が作成する質問顛末書についてであります。 国税当局が創り上げたシナリオに沿う回答を得ようとしてでしょうか、誘導尋問が頻発され、しかも、記載内容にいたっては、シナリオに合致していることのみに限られています。私は関係者から、自分たちの話していることをそのまま書いてくれないとの申し出を受けましたので、平成5年9月29日、松江税務署において、大木洋、藤原孝行、新本修司の3名に対して厳重に抗議した事実があります。

 強制捜査においては誘導尋問による追求が許されているのでしょうか。また、質問顛末書は、供述者が話をした通りの事を記載せずに、国税当局の都合のいいことのみを記載すればいいものでしょうか。国税当局の見解を求めるものであります。



一七、以上、私は怒りをこめて、強く抗議するとともに、当局におかれましては、事実関係を調査されたうえ、文書による回答をお寄せいただきたくお願い申し上げます。



平成六年二月八日松江市魚町六九番地公認会計士 山 根 治

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