飛んで火にいる夏の虫-②

 このところ連日のようにテレビに映る顔がある。キャリア官僚特有の言いまわしに終止している、眼鏡をかけた中年の人物・太田充財務省理財局長だ。

 この太田充理財局長が、松江市の出身で、しかも松江南高校をでていることを知ったのは、平成30年3月19日のことだ。テレビで政治評論家が理財局長の経歴に触れていたのである。

 翌3月20日、山陰合同銀行の久保田一朗・前頭取、現会長の言葉が伝わってきて、この情報はより具体的なものとなった。場所は松江温泉にある水天閣。松江しんじ湖ロータリークラブの定例会の席上、同クラブの会長でもある久保田一朗氏がスピーチの中で太田充局長を持ち出した。「お世話になっているあの太田ガラス店の太田さんが、全国的に有名になった。偉くなられたことだ。」

 親しくしている年下の友人が、急遽有名人に祭り上げられているのを素直に喜び、自慢そうであったという。北海道北見市の“そだね”娘(注)によって、無名の町が一躍全国的に有名になったことと同じように考えているらしい。50人余りの出席者は、おしなべて満足そうな表情であったという。

 太田ガラス店といえば、松江市魚町にある創業100年の老舗(しにせ)である。私はこのガラス店の近くの北寺町で生まれ育っている。30年ほど前に住居を魚町に移したことから、太田ガラス店は自宅の至近距離にある。
 大工の棟梁であった私の父も祖父も、太田ガラス店とは取引があった。私自身も小さい時から、小柄な先代の社長についてはよく知っている。
 太田ガラス店の専務であり社長の弟であった人物の長男が東大に入ったことまではなんとなく知っていた。しかし、それ以上のものではなかった。

 私が生まれた北寺町も、現在住んでいる魚町も「白潟(しらかた)」と言われている場所である。慶長16年に松江城ができてから400年たつが、「白潟」の地はそれよりはるか昔から松江の要(かなめ)であった。出雲神話に結びつく太古の昔からの場所だ。文字通り、松江発祥の地である。
 尚、この魚町には、自宅の他に10年ほど前に購入した土地建物がある。松江市魚町1番地(籠の鼻)、宍道湖の呑口(どんこう。宍道湖が大橋川に呑み込まれるところ。大橋川の起点)部である。大橋川拡幅事業という、不法かつ不正な公共事業を阻止するための購入であった。詳しくは、8年前のブログ記事「松江の庭-1~7」を参照していただきたい。

 大橋川拡幅事業とリンクして進められてきた松江市中心市街地整備事業。この2つの公共事業は、すでに不正な公共事業であることが判明している。
 ことに、この2つの事業に密接に関連する部分で、森友疑惑と同様の、公務員がらみの不正が松江市だけで4つ、明らかになっている。この4つの不正公金疑惑は、森友疑惑より金額がはるかに大きなものだ。この30年間で合計2兆円以上も投入された公共事業にからむ不正疑惑であり、単なる一地方の問題ではない。
 しかも、森友疑惑の背景に隠れている政治家と元政治家が、島根第一選挙区内にいる。闇のキング・メーカーである。佐川宣寿氏だけでなく、麻生太郎財務相、更には、安倍晋三総理なども、尻っぽ切りの対象となる単なるトカゲである。不正疑惑のご本尊ではない。
 “「茶坊主」という渾名で有名な”(週刊現代平成30年3月31日号)太田充理財局長という、いわばミッシング・リンクが顕在化した以上、国会の舞台は、大阪ではなく、疑惑のご本尊が鎮座する島根第一選挙区の松江市に移ることになろう。
 太田充理財局長は、森友疑惑という火の中だけでなく、松江市の不正公金支出及び談合疑惑という業火(ごうか。(仏)悪行が身を害することを火にたとえていう語。-広辞苑)の中に身を投げ入れた「飛んで火にいる夏の虫」である。

(注)“そだね”娘。ピョンチャン・オリンピックのカーリングで銅メダルを獲得した女子チームが、笑顔で“そだね”を連発し、日本中がテレビにクギ付けに。中でも、“そだね”娘・藤澤五月さんの可愛らしい笑顔が全国の老若男女をとりこにした。

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