脱税摘発の現場から-4

***4.隠れマルサ-料調の実態

 査察事案以上に私のところに相談がきているのが、隠れマルサとも称されている「料調」(リョウチョウ)事案である。ここにいう「料調」とは、各国税局に設置されている資料調査課による税務調査のことだ。法律上は通常一般の税務調査の体裁をとるものの、その実態は強制調査であるマルサと酷似している。隠れマルサとも、あるいはミニマルサとも称されている所以(ゆえん)である。ネライはズバリ、脱税の摘発である。

 まず、十分な内偵をして脱税の端緒となるしかるべき証拠を握った上で、調査に臨むのが普通である。料調が事前につかんでいる証拠は、裁判所からの捜索令状(臨検捜索差押許可状)をとろうと思えば直ちにとれる位のもので、それを敢えて令状なしで調査に入るのである。

 もちろん事前通告などはしない。予告なしで突然押しかけてくる。しかも、動員する人数もマルサほどではないが、多人数であり、納税者本人のところだけでなく、複数の関係者に対して同時に調査を行なうことが多い。

 強引かつ威圧的なやり方をするために、突然の襲撃にも等しい仕打ちを受けた納税者は気が動転して、てっきりマルサと勘違いするようである。むしろ、敢えて勘違いさせるように行動していると言った方がいいかもしれない。

 私の事件(「冤罪を創る人々」)がまさにそうであった。強制調査(マルサ)の前に、広島国税局資料調査課の税務調査がなされていたのであるが、犯罪捜査そのものであった。
 今でも忘れることができないのは、広島国税局の料調のメンバー5人が私の事務所に押しかけてきたときのことである。平成5年7月、マルサのガサ入れの2ヶ月ほど前のことであった。
 同じような黒服を身につけた5人のギラギラした男達が私一人を所長室に閉じ込め、座っている私を上から見下すようにして5人が取り囲み、強圧的な尋問を始めたのである。まさに極悪犯人を捕まえて犯行を自白させようと眼を血走らせている刑事さながらであった。
 その後、料調から査察へと切り替えられたのであるが、以後の経緯については「冤罪を創る人々」で事実に即して詳しく述べたところである。

 最近私のもとに寄せられてくる料調事案も全く同じパターンだ。料調のことをミニマルサということについては先に述べたが、ミニとはいっても決してマルサ事案に比較して脱税規模が小さいものを扱うわけではない。むしろ逆に、脱税規模はマルサよりもはるかに大きいのが多いのではないか。マルサとの違いは単に捜索令状があるかないかだけのもので、国犯法の制約を受けないことを逆手にとって、大型事案を手っ取り早く片付けようとするネライがあるようだ。
 税務職員に与えられている質問検査権は、犯罪捜査のために用いてはならないことは既に述べたところである。ところが、コッパン法による強制調査ではないにも拘らず、実態として脱税摘発という犯罪捜査を行なっているのが料調だ。
 税務調査の類型としては、通常の税務調査(各税法に定められた質問検査権にもとづく任意調査)と脱税摘発(コッパン法にもとづく強制調査)の二つがあるが、料調はこのどちらにも属さない。あくまでも任意調査の形式をとりながら、脱税摘発を行なっているからだ。
 このために、料調のことを任意調査と強制調査の他に存在する第三の調査類型であるとしている税法学者もいるほどである。法定外の存在、つまり闇の存在といったところである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“「例えばだ」言ったが例え出てこない” -生駒、鹿せんべ。

(毎日新聞、平成22年7月12日付、仲畑流万能川柳より)

(偉大なるヤジ馬と評された大宅壮一。「これは日本三大○○の一つだ」といたく賛美したところ、側にいたあまり偉くないヤジ馬がツッコミを入れた、「ところで、あとの2つは何ですか?」。大宅壮一、平然として答えて曰く、「あとの2つはこれから考える。」)

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