Uチャート分析 -5

長年、財務会計のコンサルタントをやっているなかで、会社の経営者から決まって発せられる質問がありました。



曰く、『利益がこんなに出ているのに、現金が減って、その上に借入金が増えている。何故か?』 私はその都度、次のように答えてその場をしのいできました。

『今の会計の考え方では、売上収入は現金が実際に入ったときに計上する(現金売上)だけでなく、品物を納めたときに計上する(掛売上)ようになっています。この掛売上が決算時点でも残っていますと、その分だけ利益は計上されるものの現金は入ってきません。
また、仕入とかその他の経費についてはこれとは逆のことが言えます。つまり、それぞれの現金支払いの場合はいいのですが、掛仕入とか経費の未払いが決算時点で残っているような場合には、その分だけ仕入とか経費は計上されるものの現金は出ていきません。
このように売上にしろ仕入にしろ、収入の計上、あるいは仕入の計上と実際の現金の動きとにズレがあり、往々にして売上のズレの方が仕入のズレより金額的に大きいために、利益が出ていても現金がそれに応じては残らないことになります。売掛金とか在庫が増えたりして、そこにお金が滞っているのです。お金が足りなくなった分だけ借入金が増える訳です。』

しかし、まともな経営者はこんな説明で納得などしてくれません。更に問い詰めてきます。

『我々経営者は品物を先方に納めただけでは利益が出たとは思わない。先方が実際にお金の支払いをしてくれたときにはじめて利益が出たと考えるものだ。現実の経営に即して、現金を手にしたときに売上を計上することはできないか。できないとしたら何故か?』

こうなったらもうお手上げです。企業会計原則を絶対に正しいものとする限り、このように問い詰める経営者の考え方は間違っていますので、考え方を修正してもらわなければなりません。
しかし、発生主義とか実現主義とかいった企業会計の考え方を噛んでふくめるように説明したとしても、実際の経営感覚に合致しないのですから、納得してくれるはずがありません。まともな経営者であればあるほど、納得するどころか、自らの考えを貫くために、経営者が自分で考え出した「決算書」をひそかに作ったりしているものです。

秀れた経営者は、全てといっていいほど自分独自の計算表あるいは決算書を持っています。たしかに、自らの会社についてはビックリするほど適確な“決算書”を持っているものです。経営者としての実際の感覚にピッタリする決算数字といってもいいでしょう。
更には、これらをベースとして、日々の経営指標とすべき数値を持ち合わせており、自信を持って経営に臨んでいます。このような現実の経営の指針となる指標は、経営分析の教科書に出てくるようなものではありません。自分で工夫して現実に役に立つ“目安”を創っているのです。
“決算書”にせよ、“目安”の指標にせよ、自分に分かり易いもので、しかもポイントをできるだけ絞って作られています。
このように自分で工夫をして自らのモノサシを用意しているのは、私の経験からしますと、叩き上げの経営者か理数系の経営者に多いようです。

これまで私は、多くの会社の経営分析をし、経営者に対して決算書の説明をしてきました。それらの分析は経営分析の基本に忠実に従ったものでした。かなりの時間を割いて決算書の分析を行ない、それをもとに経営者に説明をしても、心から納得してもらっていないことがヒシヒシと伝わってくることが常でした。自分の力不足を痛感し、その都度空しい思いに陥り、脱力感を覚えたものです。

どのようにしたら、会社の経営者が心から納得してくれる説明ができるのか、会計理論とか、経営分析の手法を一方的に押し付けたりすることなく、現実の経営感覚をベースにして会社の状態を理解してもらうためにはどうしたらいいのか、思い悩んだ末に辿り着いたのがUチャート分析だったのです。

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ここで一句。

“アホなこと言うてる間に64” -神戸、北川修二。

 

(毎日新聞、平成18年11月17日号より)

(同感、私も昭和17年生まれ。これからも同じことかもご同輩、酔生夢死も悪くない。)

 

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