B06 マッチポンプ 6

***(6)謀議

税務調査の数日前、とある料理屋の一室。

B税理士とA税務署上席調査官とが一献を傾けながら、ひそひそ話にふけっていた。

「あなたも来年退官して税理士事務所を開くことになるんでしょうが、準備の方はどうですか。資格さえあればできるという時代はとっくに過ぎてしまって、現在は開業してもなかなか大変ですよ。私のところは幸いにもたくさんの仕事がくるので、何かとお力添えできると思いますよ。そこでとりあえずひとつだけ顧問先をお世話いたしましょう。これは中堅どころの建設会社で現在、私が顧問をしているのですが、負担能力も充分あるので、あなたと2人でやっていこうと思っているのですよ。
ただ普通のやり方ではあの社長は、もう一人税理士をつけることについてなかなかウンと言いそうにもないので、一芝居うってみようと思うんです。
実はその会社は毎年相当多額の裏金(うらがね)を架空経費の計上によって捻出しているんですが、私は知っていて知らぬふりをしているんですよ。もちろんこれはあなた一人の腹にしまっておいてくださいよ。信頼してお話する以上、秘密は絶対に守っていただかなければなりません。
詳しい資料は、私があなたに内密で渡しますから、一度調査ということで会社に出向き、脅しをかけてください。
当然のことながら、正規の調査ではなくあなたが一人で調査という芝居をうてばいいでしょう。
署以外の所から電話をかけて調査の予告をし、一日だけ休みを取って調査という名目で会社に行き、適当に会社を締め上げればいいんです。
そこの社長というのは、本業の方はなかなかのやり手ですごい男なんですがね、税務署に対してはからっきし弱くて、話にならないほどなんですよ。
税務署の建物を見るのでさえ嫌だと言って、用事があってやむなく車で署の前を通る時なんか、ハンドルを握りながら正面を向かずに署と反対の方向に首を捻じ曲げて通るほどなんです。
ですから、事実をちらつかせてちょっと脅かせば効果は充分でしょう。
その後は、私が税務署に対して顔を利かせたふりをしてうまくもっていきます。
これはあなたの将来の仕事を確保するだけでなく、実のところ私にとってもメリットがあります。と言いますのも、最近社長が少しいい気になっていましてね、私を軽く扱うようになってきたんです。ここらあたりで一発ガツンとカツを入れてやって、私のありがたみを植え付けてやる必要があるんですよ。」

 

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