A11 ハニックス工業 事件の真相 11

*(3) 裏金(うらがね)による取得のケース

次に、裏金によって取得された自己株式について。

個人経営者もしくは、オーナー経営者の中には、あるいは、裏金づくりに精を出している人がいるかもしれない。
しかし、そのような人達でも、ひとたび会社の株式を公開しようと考え始めると大幅に変わっていくものである。

公開基準を達成するために財務体質の強化と収益性の向上が会社に求められる。会社がそれに応えれば応えるほど、公開時及び公開後の株式の評価が高まることになるために、それまでに裏金が存在するならば、会社としてはできるだけ表に出すように努めるようになるし、裏金づくりをやめてむしろ利益を多く出すようになっていくものだ。
公開時に期待できる莫大な創業者利得を考えるならば、税金をごまかすことがいかにソロバン勘定に合わないか直ちに分かるからである。

ハニックス工業の場合、店頭公開が平成2年7月であるから、遅くとも3年前の昭和62年7月には、具体的な株式公開のスケジュールができていたと考えてよい。当然ながら、公認会計士による予備調査が始まっていたはずである。
前述のとおり、第一回目の新株発行は、その一年後である昭和63年7月2日になされており、平成2年7月27日の店頭公開までに、その後7回にわたって新株が発行されている。

この時期は文字通り、社長以下、全社一丸となって店頭公開に向けて邁進していたはずである。
オーナー社長にとってこのような時期に裏金をつくることは、前記のとおりマイナスにこそなれ、決してプラスにならないことである。
この時期の裏金づくりは株式公開後の創業者利得を大きく傷つけるほかに、役員従業員のモラール(志気)を著しく低下させるであろう。
裏金づくりはオーナー社長が一人でできるものではなく、複数の部下が関与するのが通常であり、結果、社内の綱紀が緩み、脱税のメリットとは比較にならないデメリットがモラールの低下となってはねかえってくる。
裸一貫で会社を創り上げ、建機業界で数々の新機軸を打ち出して店頭公開を実現させ、全国に264社で構成するハニックス会を組成した程の経営者が、このような時期における裏金づくりのデメリットを知らなかったはずがない。
従って、ハニックス工業の場合、株式公開前3年間は裏金は存在しなかったし、従って裏金による自己株式の取得もなかったと考えるのが順当である。

しかし、百歩譲って、ハニックス工業に会社の裏金が存在し、その裏金で自己株式が取得された場合について考えてみることとする。
この場合、会社所有の自己株式ではあっても裏金による取得であるから、会社の帳簿には所有有価証券として資産計上されていないことになる。即ち、簿外資産として秘匿されているわけだ。

会社としては、この時期一定額以上の増資をしていることから、証券取引法にもとづいて有価証券届出書の提出が義務づけられている。
つまり、会社簿外資産として自己株式を取得していることは、税法と商法に違反しているにとどまらず、証券取引法にも違反していることになる。会社経営者には、それぞれ懲役刑が用意されている重大な犯罪行為である。

会社が、三つもの犯罪行為をしてまで秘匿している資産であるとすれば、いざそれを資金化して会社の正規の帳簿に計上しようとするとき、大きな困難が待ちかまえている。株式を公開し、公認会計士の監査を受けている会社にあっては、まずできない相談である。
売却益にかかる税金が、法人の場合個人に比較して多いとか少ないとかいうレベルの話ではない。もともと正規の帳簿に計上しようのないものであり、会社の資金として活用できないのである。

 

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