A08 ハニックス工業 事件の真相 8

***(7)虚構のシナリオの吟味

****1. マルサの告発

東京国税局に対する疑念が払拭できなくなった私は、当時脱税としていかなる告発がなされたのか、改めて吟味してみることにした。

経済記事に関して的確な報道をすることで定評のある日本経済新聞は、社会面で、『自社株売却、32億所得隠し、ハニックス工業90年店頭公開時』との見出しを揚げ、 ―

『国税当局や関係者によると、ハニックス工業は88年ごろから株式の店頭公開に向けて第三者割当増資や株式分割に踏み切り、大量の新株を発行。役員ら幹部七人の名義で株式を保有していた。
90年7月27日に同社が株式を店頭公開すると、公募価格8千390円だった株価は一気に約二倍の1万6,600円にはね上がった。同社は幹部七人のうち四人の保有株について、公開当日に15万2千株、その約四ヵ月後に6万1千株の計21万3千株を売却。32億円を上回る売却益を得たが、大半が広川社長が管理している銀行口座に流れた。この売却益は本来法人所得となるべきなのに、同社は名義を貸した役員らに個人所得として申告させた、というのが国税当局の認定だ。
同社は、名義を個人に装うことで、商法が事実上禁止している自社株の保有、売買を事実上実現するのがねらいだったとみられる。
幹部七人のうち残る三人の株式は現在も売却しないまま持っていると言われる。また、株式売却益を法人所得として申告すると、当時の法人税率40%が適用されたが、個人所得であれば、申告分離課税方式で20%で済んだことも、個人所得を装う動機になったとみられる。』

― と詳細に記述している。

同紙は更に、ハニックス工業社長のコメントを次のように載せている、 ―

『今回の告発についてH社長は「店頭公開当日は見込み以上に買いが入って株価がつり上がり、このままだと大蔵省の規制で売買停止にもなりかねない状況だったので、役員から借りた株を冷やし玉として放出した」と説明している。』(同紙、平成5年5月26日付)

同紙による国税局の告発の内容を要約すると、 ―
+ハニックス工業は店頭登録以前に、自社株を役員ら幹部七人の個人名義で保有していた。
+そのうち、四人の名義になっている自社株を、店頭登録後、合計で21万3千株売却した。
+この売却益は32億円を上まわるものであったが、会社は法人の利益として計上せず、名義を借りていた役員らに個人所得として申告させた。
+株式の名義を個人に装ったのは、商法が禁止している自社株の保有・売買を事実上実現するためであった。
+脱税の動機は、法人所得として申告するのと比較して、個人所得であれば、半分の20%で済むことであった。
+国税が個人の所得ではなく、法人の所得であると認定したのは、売却益の大半がH社長が管理している銀行口座に流れたからである。
一見もっともらしいことが述べられているものの、仔細に検討してみると、いくつかおかしいことがあることに気がついた。

 

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