脱税摘発の現場から-12

***12.税制の抜け穴(承前)

 税理士が納税者の顧問をしていたり、あるいは税務申告書を作成し、申告の代理人になっていることが、調査立会いにどのように影響するのであろうか。立会い自体は税理士業務ではないにも拘らず、納税者に何らかの関与をしていたことによって、立会いについても税理士法に事実上しばられることになるとは、一体何を意味するのか。



 調査によって何も非違(脱税)事項が出てこなければ、勿論問題は出てこない。税理士にとって鬱陶しいことが起るのは非違事項が出てきた時、あるいは、税務職員が非違事項であると頑(かたく)なに思い込んでいる時である。

 仮に出てきた場合には、署名をした税理士の責任が問題となり、税務職員に痛くもない腹をさぐられたり、更には税理士法をタテに恫喝されかねない。その挙句、業務停止とか資格抹消だけならまだしも、脱税の片棒をかついだとして刑事罰に問われ、逮捕されることもあり得るのだ。納税者とグルになって税金をゴマかしていると勘ぐられたりしたら、公正な裁判官としての役割はおろか、弁護人としての役割すら果せなくなってしまう。ヘビににらまれたカエルのように、身動きができなくなり、自分のことで精一杯で納税者のことなど考えている余裕がなくなり、ひたすら税務当局に迎合せざるを得なくなってしまう。税理士が自らを守るために、税務当局の替りになんとか納税者を説得して、支払う必要のない税金を納税者に強いることにもなりかねない。国税OBの税理士に多く見受けられるところである。

 このようなことは、立会いが、それ以前に行なった税理士業務を引きずっているために起ることだ。
 脱税の相談に乗ったり、脱税の指導をするような不心得な税理士は、仮にいたとしてもごくわずかであろう。税理士本人はもちろんのこと納税者にとってもリスクが余りにも大きすぎるからだ。従ってほとんどの税理士はそのような、割に合わない汚れ仕事に手を貸すことはない。当然のことである。
 しかし、そのような不正に手を貸した事実がないにも拘らず、納税者と一緒になって脱税をしていると思い込まれでもしたら大変だ。とくに、納税者が苦しまぎれに税理士に脱税の相談をしたとか、税理士の指導を受けたなどと供述でもしたら悲惨なことになる。逮捕され訴追された名古屋の税理士のケースは、税理士にとって決して他人事ではないのである。

 ただし、通常の税務調査の場合には以上のような問題はまず起らない。大半の税務調査は、概ね任意調査の趣旨にのっとって行なわれ、初めから脱税であると決めつけるような乱暴なことはしないからだ。従って、このような問題が現実となるのは脱税の摘発を目的にしている資料調査課による調査(料調)のときである。事前調査(内偵)によって勝手なストーリーを創り上げ、脱税をしているという思い込みを前提として調査が開始されるからだ。料調自体、法律の規定にはないものであり、違法とも言える調査ではあるが、全国的に横行しているのが現実だ。
 では、料調に直面して以上のような事態が予測される場合に、納税者も関与税理士もなすすべがないであろうか。料調のペースにのって、脅かされるままに理不尽なことにでも屈服しなければならないであろうか。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“「私よ」の電話に別の名を言われ” -柏原、柏原のミミ

(毎日新聞、平成22年9月7日付、仲畑流万能川柳より)

(言い訳をすればするほどアリ地獄、ひたすらとぼけて、石になる。)

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