脱税摘発の現場から-11

***11.税制の抜け穴(承前)

 本来ならば税理士の最も重要な仕事であるべき税務調査の立会いが、税理士の独占業務である「税理士業務」(税理士法第2条)から外されている-、これは多分に徴税側の都合によるものだ。

 ところがよく考えてみると皮肉なことに、このことは納税者と税理士にとってはマイナスになるどころか、逆にプラスに働くことが判明する。税務調査の立会いが税理士業務ではないということであれば、税務調査の立会いを業務として行なったとしても、税理士法のシバリを全く受けないことになるからだ。



 税理士法の規定にしばられない、-税理士にとっては極めて大きな意味を持つことだ。たとえば、スパイもどきの行為を強要される(税理士法41条の3、助言義務。同41条、帳簿作成の義務。同55条、監督上の措置)ことはないし、財務大臣が行なう懲戒処分(税理士法第44条以下)とか、罰則(同法第58条以下)の対象になることもない。当然のことながら、ゲー・ペー・ウー(秘密警察)の役割を担っている税理士会・日本税理士会連合会が介入することもできないのである。

 立会いが税理士業務でないとすれば、理屈の上では税理士ではない一般の人でもできるのであるが、現実問題としては税理士に限定される。というのも、立会いといっても単に傍らで見守るだけでは不十分であり、納税者のために税務職員と交渉しなければならないからであり、この交渉となると、「税務官公署の調査・・・に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述」(同法第2条第1項一)に該当することとなり、独占事務である税務代理となるからだ。
 これでは立会いも、事実上税理士法にしばられてしまうのではないかといった意見が出てくるかもしれない。たしかに、税務調査のときに納税者に替わって主張したり、陳述したりすることは税理士でなければできないし、税理士業務を行なう限り税理士法にしばられる。この点に限って言えばその通りである。

 しかし、そもそも立会いは納税者が税務申告を終えてから後のものであることに留意する必要がある。納税者は正しい申告をしているという立場であるのに対して、疑いの目をもって粗(あら)探しをするのが税務調査であるとするならば、立会人としては、すでに提出された税務申告について、納税者の弁護人の役割を担うと同時に、「公正な立場」(税理士法第一条)の第三者としていわば裁判官の役割を担うことになる。
 申告が間違っているというのであれば、国税当局がそれを証明しなければならない。つまり、立証責任は国税側にあるわけで、立会人としては国税側の言い分に耳を傾け、その是非について判断すればいいだけのことである。申告が間違いであるというのであれば、それを立証する立場にあるのはあくまで国税側である。納税者あるいは代理人である立会人は申告内容が正しいことを敢えて証明する必要がないということだ。その点、立会人としては、気楽な高見の見物といったところである。

 立会い、あるいは立会人の役割は以上のとおりではあるが、立会人が納税者の顧問をしていたり、あるいは申告書を作成し、申告の代理人になっている場合には、税理士法のしばり(助言義務、帳簿作成の義務、監督上の措置、懲戒処分、罰則等)が復活し、高見の見物どころか、税理士にとってはなんとも鬱陶しいことが生じてくる。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“ゴロゴロしヨタヨタハァハァ老いの夏” 

-袖ヶ浦、石井理江(毎日新聞、平成22年8月21日付、仲畑流万能川柳より)

(ゴロゴロしヨタヨタハァハァしていても、私は老いの自覚なし。)

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