脱税摘発の現場から-10

***10.税制の抜け穴(承前)

 税制の抜け穴。7万人の税理士を巧みに利用して、納税者の権利を事実上剥奪している税理士法、この悪法に存在する意外な抜け穴とは何か。上手(じょうず)の手から水を漏らした穴とは一体何か。

 ズバリ、税務調査の立会いの規定が欠けていることである。税務調査の立会いとは、第三者が税務調査の現場に臨席して税務調査をしっかりと見届けることであるが、これについての定めがないのである。



 納税者は通常、決算書などの基礎資料を作成して、それをもとに税務書類(税務申告書など)の作成を行なう。基礎資料を作成するまでの相談(税務相談)を受けたり、税務書類を作成(税務書類の作成)したり、納税者の代理人となったり(税務代理)するのが税理士であり、この3つの事務の独占権を持っている。既に述べたところである

 申告納税制度を採用している我が国においては、払うべき税金は納税者自らが計算をして納税する建前になっている。
 しかし、これで終りではない。税務当局のチェックが待っているからだ。申告内容が正しいかどうかについてのチェックである。納税者に対して行なう調査、税務調査である。
 税務調査は強力な権限である質問検査権にもとづいて行なわれる。この権限はそれぞれの税法に規定されているものであり(法人税法第153条、所得税法第234条、相続税法第60条)、納税者としては「正当な理由がある場合」を除き拒否することができない。一般の税務調査が任意調査であるにも拘らず、納税者としては拒絶することができず調査を受ける義務(受忍義務)があることから間接強制と称されている所以(ゆえん)である。
 つまり、納税者としては税務調査などのチェックを受けて申告が正しいものと認定されるまでは終ったことにはならないのである。この意味からすれば、納税者にとって最も関心のあることは、申告した内容がそのまま認められる(是認)かどうかであり、税務調査がなされる場合にはどのようなことがらについて、どのような調査がなされ、税務当局によってどのような判断がなされるかということだ。
 ところが、納税者にとっての最大の関心事ともいうべき税務調査については法的整備がなされていないのが現実だ。納税者の立場を無視したトンデモない税務調査が横行しているのは、納税者の権利を擁護すべき法的整備が欠けているからであり、税務当局の勝手気儘な裁量に任されているからだ。

 税理士法においても、税務調査に関しては一部間接的に触れられているだけであり、真正面から取り上げられてはいない。関連する条項はわずかに、税理士は税務調査に関して納税者の主張あるいは陳述について代理することができること(税理士法第2条)、税理士は税務職員と面接するときは税理士証票を提示すること(同第32条)、税務職員は税務調査を行なうにあたって、納税者に対して必ずしも事前に知らせる(事前通知)必要はないが、仮に事前通知をした場合には代理人である税理士にも通知すること(同第34条)、この3つ位のものだ。税務当局としては、できることなら自分達だけで調査を行ない、第三者の干渉を受けたくないといった思惑が透けて見えるようである。
 このためであろうか、税理士法には税務調査の立会いについての規定が全く存在しない。そもそも立会いそのものが税理士業務とはされていないのである。立会いを税理士業務の中に組み込み、税理士の立会権を真正面から認めてしまうと、税務調査そのものがやりづらいものとなるおそれがあることから敢えて外してあるものと思われる。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“さあ餌付け 開始と彼に 肉じゃがを” -柏原、柏原のミミ。

(毎日新聞、平成22年8月31日付、仲畑流万能川柳より)

(福岡伸一さんの「できそこないの男たち」に何故か納得。)

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