マルサ(査察)は、今-⑧-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***7.騙しのテクニックと証拠の捏造-(2)

 ガサ入れ(臨検捜索)の翌日、嫌疑者が東京国税局に呼びつけられた。有無を言わさない、事実上の出頭命令である。

 嫌疑者は大手町合同庁舎3号館の4Fにある狭苦しい窓のない密室に通され、2人の査察官の尋問を受けた。この二人、前述の松井洋と野間田芳徳である。

 前日、嫌疑者に署名捺印を拒絶されたことから、今日こそは何としても質問てん末書に署名捺印させようと意気込んでいる。質問てん末書はすでに出来上がっており、読み上げがなされた後に再び署名捺印を迫ってきた。

嫌疑者の答弁内容としてパソコンに打ち込まれていたのは、概ね次の通りであった。
+私がレジの集計に手を加えて売上の除外をしました。
+私が仕入を二重計上することによって、架空仕入を計上しました。
+私が人件費を水増しすることによって、架空人件費を計上しました。
+売上除外、架空仕入、架空人件費については全て私の判断で行なったものです。
 以上を読み聞かせられた嫌疑者は強烈な違和感を覚えた。
-「売上除外」
-「架空仕入」
-「架空人件費」
 査察調査は刑事告発を目的としている、このことはすでに昨日査察官から聞かされている。上の3つの言葉は脱税犯罪を端的に示すものだ。それらが嫌疑者にズシリとのしかかってきた。
 脱税犯、刑事告発、更には逮捕までが一瞬のうちに脳裡をかけめぐった。刑事告発されたら、マスコミの餌食になって、揉みくちゃにされてしまう。(「冤罪を創る人々 008脱税日本一」「冤罪を創る人々 048マスコミ報道の実態」参照)
 刑事裁判は、推定無罪が建前だ。判決が確定するまでは無罪が推定される、当然のことである。
 しかし、実際は全く異なっている。ひとたび告発されて嫌疑者となったり、訴追されて刑事被告人になった段階で、推定無罪どころか、推定有罪の烙印が押されてしまう。これが日本における刑事裁判の現実だ。更に言えば、査察調査が行なわれたら、まず告発されるものとみなければならない。告発され、刑事法廷に引きずり出されれば無罪を勝ち取ることはほとんど絶望的だ。国税庁は過去から現在に至るまで、

「脱税事件の有罪率は100%」

と豪語して憚らない。(「冤罪を創る人々 120 無謬神話の崩壊」、「平成23年度 査察の概要 6 査察事件の一審判決の状況|国税庁」参照)

 嫌疑者が二人の査察官から質問てん末書を読み聞かされ、署名捺印を求められたときに、一瞬のうちに脳裡を駆け巡ったのは、以上のような日本の刑事裁判、とりわけ脱税裁判の現実であった。
 身を堅くして署名捺印をためらい、

「このような内容では納得できない」

と申し向けた嫌疑者に対して、二人の査察官が放った言葉は、にわかには信じ難い驚くべきものであった。

「この書類(質問てん末書)は大したものではない。後々残るような大層なものではないから何も心配することはない。気軽に考えてもらいたい。」

 査察官の心証を悪くしてもいけないし、それではと署名捺印に応じた嫌疑者に対して、上記に輪をかけたような言葉が野間田芳徳査察官から発せられた。騙しのテクニックのダメ押しである。

「今後は必ず三文判で捺印する様にして下さい。」

 このとき嫌疑者が用いたのは、直径が13mmの銀行印であった。特殊な字体を指示した上で誂えた注文品である。これに対して、三文判は、直径が10mm弱の安価な既製品のことだ。
 大切にしている銀行印ではなく、気軽に購入できる三文判を用いるように申し向けた野間田査察官、印鑑を押捺する書類(質問てん末書)がさほど重要なものではなく、軽々しいものであることを印象づけようとして、敢えて言葉を追加したのであろうか。
 すでに度々触れているように、質問てん末書は査察調査において最も重要な法定書類である。告発する際に不可欠な書類であると同時に、起訴され、刑事事件に移行した場合には、最も重要な証拠となるものだ。「後々残るような大層なものでない」どころではない。後にまでしっかりと残って、脱税事件の有罪の決定的証拠の一つとなるものだ。
 「大したものではない」とか、「三文判を押しておけばよい」とか、いいかげんなことを喋って嫌疑者を騙し、質問てん末書という重要な証拠をつくり上げる、証拠の捏造以外の何ものでもない。歴とした犯罪である。

 実は、このような証拠の捏造、査察調査の現場でなされているだけではない。広く税務調査の現場で頻発している。とくに悪質なのがミニ・マルサと称されている料調(国税局資料調査課による税務調査)だ。
 料調の場合は、事実上のガサ入れと同時に、納税者から脱税の言質(げんち)を取ることが一般的だ。「一筆」といわれているものである。とりあえず「一筆」をとった上で、その後で、内容をふくらませて質問てん末書に相当する「質疑応答書」なるものの作成に及ぶ。手順を踏んで証拠をデッチ上げるのである。
 証拠捏造にかかる最近の事例としては、大阪国税局の料調のケースがある。すでにこのブログでその概要を公表したところだ。このケースでは、納税者を恫喝したり、騙したりして納税者の意に反する「一筆」を取っている。証拠の捏造が、納税者の代理人である税理士とタッグマッチを組んで堂々となされていたり、その後の税務調査の対応が余りにも悪質であったことから、大阪国税局長以下7名の税務職員の実名を挙げて、財務大臣と国税庁長官に対してそれぞれ、非行公務員の免職等を求める請願を行ったのであるが、半年経った現在、ナシのツブテである。行政が対応を怠っていることから、近く、司法の場、及び国会の場(財務金融委員会等)で、証拠の捏造の詳細と組織ぐるみで行った隠蔽工作の実態を明らかにする予定である。

(この項つづく)

***【追記】
 部下の不正行為を知りつつも敢えて不問に付した菅野良三大阪国税局長は、平成24年8月22日付で関東財務局長に転任している。このキャリア、転任したからといって責任が消え去る訳ではない。

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 ここで一句。

“地下だけがあればいいです百貨店” -横浜、ジラム

 

(毎日新聞、平成24年6月13日付、仲畑流万能川柳より)

(同志!スーパーをウロチョロはじめて20年。デパートもデパ地下以外用はなし。)

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