マルサ(査察)は、今-⑦-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***6.騙しのテクニックと証拠の捏造-(1)

 嫌疑者から相談があったのはこのような時であった。強制捜査があった日から20日も経過していない時期である。

 面談の上で詳しい事情を聴取した内容は、にわかには信じ難い、耳を疑うようなものであった。査察官による証拠捏造の生々しいプロセスが赤裸々に語られたのである。

 ガサ入れ(臨検捜索)当日、早速、質問てん末書(国犯法第10条)が作成され、署名押印を迫られた。嫌疑者が、

「朝から突然の強制捜査を受け、疲れているし、思考が混乱している状態だ。署名押印については少し待ってほしい。」

旨、申し出たところ、査察官は、

「協力してもらえないようであれば、後々の記録のために“署名押印を拒否”したと書面に入れておく。」

と、捜査に非協力的であるかのような言辞を投げかけた。

 確かに、質問てん末書は収税官吏(査察官のこと)に義務付けられた法定調書であり、収税官吏が職務を行なったときには必ずてん末を記した文書を作成し、自ら署名捺印し、嫌疑者にも署名捺印を求めることになっている(国犯法第10条)。
 ただし、法律では

「立会人又ハ質問ヲ受ケタル者署名捺印セス又ハ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其ノ旨ヲ附記スヘシ」

とされているだけだ(同第10条)。
 つまり、嫌疑者が「署名捺印しないとき」、又は「署名捺印することができないとき」は、その旨を質問てん末書に附記することになっているだけのことである。嫌疑者が捜査に協力的であるかどうかは関係ない。全く余計なことだ。
 臨検捜索・差押えは強制的なものであっても、嫌疑者に対する質問調査は強制的なものではない。査察官が質問し、嫌疑者がそれに対して答える、あるいは答えないについては任意であり、その結果作成される質問てん末書は、一般の刑法犯における供述調書(刑訴法第198条)に相当する任意調書であるということだ。
 査察官が非協力的であることを嫌疑者に申し向けることは、本来任意であるべき質問てん末書を歪めることにもなりかねない。非協力的であると難詰された嫌疑者とすれば、より重い刑事処分とか逮捕を示唆されたものと受けとめるのが普通である。それによる精神的プレッシャーは並大抵のものではない。
 質問てん末書の署名捺印に限らず、国犯法においては嫌疑者には法で定められた受忍義務以外の協力義務は存在しない。ことに質問検査に対しては、答えるのも答えないのも嫌疑者の自由である。この点、一般の税法(注、平成25年1月1日からは国税通則法)で定められている質問検査権とは全く異なる。

 一般の質問検査については、納税者は拒否したり、偽りの答弁をしてはいけないことになっている。罰則をもうけることによって間接的に強制されているからだ(法人税法第162条、所得税法第242条、相続税法第70条、改正国税通則法第127条第2項第3項)。一般の質問検査が任意調査とされている一方で、間接的に強制調査の側面を持っている所以(ゆえん)である。
 ところが、国犯法による質問検査には、嫌疑者が拒否しようが、あるいは偽りの答弁をしようが、それに対する罰則の規定はない。国犯法が、脱税(国犯法第1条に規定する犯則事件のこと)を摘発する刑事手続法であることから、当然のことである。答弁を拒否したり、あるいは、虚偽の答弁をしたことについての不利益は、刑事事件において嫌疑者が受けるだけのことで、告発する権限しか与えられていない査察には関係がない。
 「査察調査に協力的でない」(「冤罪を創る人々 040 永田嘉輝」参照)ことをもって、嫌疑者に対して言いがかりをつけたり不当な圧力をかけることは、国犯法にもとづく強制調査においては許されることではない。質問検査権について言えば、一般の質問検査権のように強大なものではない。罰則を伴うような強力な権限ではないのである。つまり、刑事訴訟法が適用される犯罪の捜査と同様であって、それ以上の権限を有するものではない。
 査察調査に協力的ではないことが、いかにも悪いことであるかのように申し向け、嫌疑者に多大な精神的負担を与えることは、刑事手続法である国犯法の趣旨を逸脱するものだ。証拠の捏造へと結びつく騙しのテクニックである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“暮れりゃ寝る電力足りんことはない” -久留米、プー熊

 

(毎日新聞、平成24年8月7日付、仲畑流万能川柳より)

(150年前、文明開化という美名のもとに断行された日本の文化・文明の破壊行為。福島第一原発の事故によって、明治維新以来追い続けてきた近代国家への道が虚妄であったことが明らかに。)

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